人間が飲んだ薬で、魚が「異常な行動」を? メダカを使って影響をみる「環境生物学」【イマドキの大学ゼミ】
動物は周りの環境から常に影響を受けています。例えば、ワニ、トカゲなどの一部の爬虫類は温度によってオス・メスの性別が決まります。東京理科大学先進工学部生命システム工学科の宮川信一教授のゼミでは、動物が環境にどう反応するのかを研究しています。大学院先進工学研究科生命システム工学専攻1年の金子蓮司さんに、「環境生物学」という分野の研究の面白さを聞きました。 【写真】昔のイメージとは大違い? 女子高生に人気の意外な大学
研究室データ
東京理科大学先進工学部生命システム工学科 宮川信一ゼミ 研究分野:環境生物学 ゼミ生:20人(男12人:女8人)(2024年4月時点)
メダカの脳の遺伝子を見る
病気の治療のために人は医薬品を服用しますが、体内から排出された成分が川に流れていくことがあります。環境中に放出された化学物質は魚にどんな影響を与えるのでしょうか。宮川教授のゼミでは、メダカを使ってこの変化を調べています。 金子さんはこう説明します。 「人間に使われた医薬品が、薬の効果を保ったまま環境中に出てしまうことがあります。人の体から排出された後に下水処理はされますが、完全には処理しきれずに、川に放出されてしまうからです。その影響を見るために、メダカに医薬品を暴露する(体内に入る)実験をしています」 実際に川から検出された医薬品をメダカの水槽に入れ、1週間、飼育します。その後、解剖して脳を取り出し、遺伝子の変化を見ます。期間を1週間と決めたのは、ゼミの先輩による先行研究で、3、4日で異常が出ることがわかったからです。
「異常な行動」とは?
「薬によって遺伝子が変化し、行動にも異常が現れます。代表的なのは、水面近くを泳ぐようになる『表層遊泳』です。自然界では鳥に見つかりやすくなるので、生存という点から見ると異常な行動です」 変化した遺伝子によって体の中のどの機能が変わったのかを調べ、行動異常を起こすシステムを解明するのが金子さんの研究の目的です。 「実験をして、コンピューターで解析して、どういうデータが得られるか。実験の結果が出ること自体が楽しくて、やりがいがあります。新しいことを発見する可能性にも魅力を感じています」 実験の前には200匹近くのメダカを孵化させ、3、4カ月かけて育てます。1年に3、4回の実験をして、修士論文を作成します。しかし、実験はいつもうまくいくとは限りません。メダカが大量に死んでしまって解析するだけのデータが得られず、落ち込むこともあります。そんなときは宮川教授や先輩に相談し、「よくあることだよ」などと励まされたりしながら、研究を進めてきました。研究を始めてから、思い通りにならなくても、あきらめずにやり続ける力がついたといいます。