会話がなかった父と娘に、保護犬を迎えたことで起きた変化。娘が明かした、薬学部を目指した理由とは
◆母親のために 料理を口に運びながら、つむぎがはじめて薬学部を志した理由を教えてくれた。 娘なりに母親のためになにかできることがないか、心を痛めて考え抜いた結果だったのだ。 もともとそんなに勉強が好きではない彼女が、薫のがんが再発してから人知れず猛勉強を始めた。 そんなことにすら気づかないなんて、本当にダメな父親だ。自分だけが頑張っているなんて思い上がりも甚だしい。 僕と娘の関係性の変化を誰よりも喜んでいたのが薫だった。 「つむぎはああ見えて気難しいところがあるから。こばちゃん(薫は僕をこう呼んでいた)とつむぎが仲良くなって本当によかった、これで安心だわ」 ひとつずつ、心配事を整理して、未来に向けた心の準備を始めていたのかもしれない。
◆教えてくれたのは 気がつけば福が家に来たことで、ぎくしゃくして滑りが悪くなっていた家族の間を仕切っていた扉が、今は滑らかに大きく開き、お互いへの思いやりが風のように心地よく吹き抜けるのを感じた。 過去を悔やんでもしょうがない。 そして未来を案じても今の時間が無駄になるだけ。 過去も未来も実際には存在しない。 存在するのはただ「現在だけ」。 そのことを教えてくれたのはまぎれもなく福だった。 ※本稿は、『妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした』(風鳴舎)の一部を再編集したものです。
小林孝延
【関連記事】
- 余命半年と宣告された妻のため、保護犬を迎えることを決意。衝動的に犬を買う人が後を絶たない日本の<殺処分の現状>とは
- 神津はづき×神津カンナが語る、母・中村メイコ「最後の仕事は『徹子の部屋』。6日後、最愛の夫にもたれかかり、映画のような最期だった」
- 八代亜紀さん、膠原病からの急速進行性間質性肺炎で急逝「婚姻届けの保証人は八代さん。人にも動物にもとことん〈優しい〉人だった」新田純一
- 小倉智昭「コレクション用の部屋を畳み、荷物を入れた自宅から妻と義母が出て行き…。一人暮らしで妻との仲がより親密に」
- ジュディ・オング 愛犬との死別で、自分もいずれ同じ道を辿るという覚悟も。「なんて可愛いの!」と笑顔になることがどれだけ人生を明るくしてくれていることか