【後編】総距離37㎞、越えるピークは12座。ロング&ハードな1泊2日の大縦走。「大菩薩連嶺北南ファストトリップ」
【後編】総距離37㎞、越えるピークは12座。ロング&ハードな1泊2日の大縦走。「大菩薩連嶺北南ファストトリップ」
カモシカスポーツのファストパッキング隊長、茂垣亮馬さんのアドバイスで装備のスリム化に成功した編集部員・カトウ。新調した装備を携え、茂垣さんとともに向かうは南北に峰々が連なる山梨の大菩薩連嶺。 いままでよりもっと速く、遠くへ――という体力無視の無謀なチャレンジは、果たして成功するのか? 編集・文◉PEAKS編集部 写真◉宇佐美博之。 ▼装備の見直し編はこちらをチェック 。
ガス、強風、まさかの霧氷。季節が戻り、気持ちも冬眠モードに。
――ガス、強風、そして、霧氷。 穏やかだった昨日から一転、大菩薩峠まで登ったふたりに待ち受けていたのは、厳冬だった。 「予報は晴れだったはずなんですけどね……」 浮かない、というかほぼ無表情でつぶやくカトウ。 「滝雲に包まれちゃってますよね。待てば抜けると思うんですが、もうちょっとかかるかもしれないですね」。 日の出を拝んで出発、のはずがまさかの展開に。しかし、大菩薩峠でしばらく待っていると、かすかに太陽が顔を現してきた。好転の兆しだろうか。 「そろそろ」と期待しながら白い世界を進むが、そのそろそろがなかなかやってこない。そのまま石丸峠を過ぎ、天狗棚山を越え、狼平へ。この狼平は、だだっ広いササの平原が広がる大菩薩連嶺のなかでも有数の見どころ。しかし、依然としてガスが抜ける気配はない……。 「まあ、まだこの先いい場所もたくさんありますし、行程も長いのでこのまま行きましょう」そうカトウに語りかけ、茂垣さんは歩みを進める。小金沢山の登りの樹林帯。ここで、そろそろがやってきた。ガスが抜け始め、コケと針葉樹の森に日が差し込む。まるで長い冬を抜け、春がやってきたかのようだ。 ロボットのように表情を失いかけていたカトウの顔にも少し笑顔が戻ってきた。心なしか軽くなった足取りで進み、あっという間に小金沢山のピークに到着。日は差すものの、まだまだ気温が低く、風も残っている。早出で朝ごはんをゆっくり食べる時間がなかったこともあり、山頂で湯を沸かし休憩することにした。ここでカメラマンの宇佐美さんが伝家の宝刀のごとくホットサンドクッカー(重量約500g)を取り出し、行動食のパンを焼いてふるまい始めた。 「とりあえず焼いたらなんでもうまくなりますから。お茶といっしょに食べてくださいね」 軽量なふたりの装備には存在しないチートアイテムと、仲間を思う心遣いのおかげで、すっかり身も心もほぐれたふたり。入れ替えたクロスオーバードームの重量630gに迫る不要不急なホットサンドクッカーだが、結局のところ、背負えるだけの体力があれば、細かい重量にとらわれる必要はないのだとあらためて気付かされる。軽さは正義、ではなく健脚は正義なのだ。 すっかり旅も終盤のような気になってくるが、この時点ではまだ2日目の行程の5分の1程度。山頂からの富士の展望を目に焼き付けて、笹原を進み次なるピークに向かう。 牛奥ノ雁か腹摺山、黒岳――。 次々とピークを踏んでいくが、登頂を喜ぶというよりは、通過点を進むという雰囲気になってきた。そして次の山、白谷ノ丸へ。この山頂からはこれから歩く稜線を含む南側の大展望が広がる。このあとグッと高度を下げて湯ノ沢峠に下れば、今日の前半が終了だ。ちょうどここまでが、小金沢連嶺の北部とされている。 避難小屋、トイレ、水場がある湯ノ沢峠へ。時間にはまだ余裕があるので、ここでまた休憩。ファストパッキングでなければ、ここでもう1泊というスケジュールも良いが、今日は長く、速く歩き、さらに10㎞以上先にある初狩駅を目指す。半ば部活、あるいは修行のようになってきた感はあるが、体力はまだ十分。気持ちを入れ直して次なるピークの大蔵高丸を目指す。