生成AIを業務で活用するにはどうすれば?→LIXILの凄腕データサイエンティストの助言に納得感しかない
「トイレの調子が悪いんです」。そんな顧客の問い合わせから、困りごとを解決した上で、リフォームを提案、販売につなげる~LIXILのお客さま相談センターで、新たな挑戦が始まっている。生成AIを使うことで、リフォーム提案の成功率は2倍以上に。顧客満足度も約20ポイント上昇した。手がけたのは、中国ファーウェイからやってきた凄腕の女性データサイエンティストだ。挫折の末に彼女が見いだした、成功の要因とは何だったのか?(ノンフィクションライター 酒井真弓) 【この記事の画像を見る】 ● 生成AIプロジェクトは、なぜPoCを抜け出せないのか 生成AIを業務に組み込みたい企業は増えているものの、PoC(概念実証)止まりが後を絶たない。主な理由は3つある。 まずは、「とりあえず生成AIを使ってみよう」という性急な発想だ。それ自体は決して悪いことではないが、現場理解もそこそこにPoCを始め、結果として現場に受け入れられずに終わってしまう。 さらに、多くの企業が見落としがちなのが、データの前処理の重要性だ。生成AIを有効活用するには、AIが処理しやすい形にデータを整備する必要がある。一般ユーザーでも、入力するデータやプロンプトによって生成AIの回答精度が変わることを思い浮かべれば分かりやすい。実際にやってみて初めて、その重要性を痛感する企業も多いようだ。 そして、最も欠けてはいけない重要なピースが、現場と推進部門の連携だ。なぜ生成AIを導入するのか、業務はどう変わるのか、現場の疑問や不安に向き合う必要がある。LIXILは、これらの課題をどう乗り越えたのか。
● 生成AIで「攻め」へ お客さま相談センターの挑戦 LIXILのお客さま相談センターには日々、トイレの不具合などの電話相談が寄せられる。この貴重な接点を販売機会に変えられないか――そんな発想から、同センターの改革は始まった。 いざ動き出すと、大きな課題が浮かび上がった。プロジェクトの中核を担うデータサイエンティストの葉 昕竺(よう しんちく)さんは、こう振り返る。 「お客さまは、困りごとの解決を求めて電話をかけてこられます。まずはそれに応えることが最優先。その上で自然な形でリフォームを提案することは、オペレーターの皆さんにとって大きなチャレンジでした。顧客満足度は重要なKPIの一つですから、押しつけがましくならないアプローチを模索する必要がありました」 ● AIに頼る前に、人間が会話を理解する 葉さんはまず、生成AIありきではなく、課題の本質を捉えることから始めた。着目したのは、お客さま相談センターに蓄積された膨大な会話データだ。「実際に20~30件のお客さまとの会話を聴き、リフォーム提案が成功するケースと、そうでないケースの違いを感覚として理解することから始めました」 分析には、複数のGoogle Cloud技術を組み合わせた。まずは会話データを「Speech-to-Text AI」でテキスト化。その後、成功パターンの解釈には、機械学習プラットフォームの「Vertex AI」と生成AIの「Gemini」を活用した。ポイントは、生成AIのような新しい技術だけではなく、実績のある技術を適材適所で用いたことだ。 「生成AIの精度を上げるには、まずデータの整理が重要です。『AIがあれば従来の分析手法は不要』という考えは間違いです。私たちは、膨大なデータから重要な情報を見極め、AIが扱いやすい形に整えてから渡しています。やはりこれがシンプルながら効果が大きい。AIと従来の分析手法、それぞれの良さを組み合わせ、いかにAIの能力を引き出せるかが、データサイエンティストの腕の見せ所です」 分析結果から見えてきたのは、リフォーム提案が成功する会話の展開だ。「3カ月前から水漏れが続いて~」といった具合に顧客が詳しく経緯を話す場合は成功率が高い。さらにベテランのオペレーターは、過去にどんな故障や修理があったか掘り下げて聞くことで、現状把握と信頼関係の構築を同時に行っていた。 これらの知見をもとに「成功プロセス」を整理。現場に分析結果を渡して終わりではなく、会話の各フェーズで何を確認し、どう話を展開していけばいいのか、具体的なトレーニングコンテンツにまで落とし込んでいった。