中東開催「パリ五輪予選アジア杯」は油断なく
【ベテラン記者コラム】語弊を恐れずに言えば、中東での大会は難しい。パリ五輪アジア最終予選を兼ねたU-23(23歳以下)アジア・カップの中国戦を地上波で観戦しながら、改めてそう思った。2022年ワールドカップ(W杯)、今年1~2月にあったフル代表のアジア・カップに次ぐ、カタールでの開催。ホスト国が大会慣れしていることや、スタジアムをはじめとした素晴らしい施設が整備されていることはいいのだが、ピッチ内外で〝想定外〟のことが起こりがちだ。 日本の初戦だった中国戦では、前半8分に幸先良く先制しながら、同17分にDF西尾隆矢(C大阪)が一発退場。日本はその後の70分以上を相手より一人少ない状態で戦わざるを得なかった。 背中を小突いた相手を振り払おうとしたところ、肘で打つ形になった西尾の行為自体、軽率だったのは否めない。ただ、ふだんからC大阪で取材している立場で言えば、冷静沈着でおっとりした面もある西尾が怒りに任せて報復を行ったとも思えない。ピッチを去る際にも、「やってしまった」と悔悟の表情が浮かんでいた。将来のある選手。不本意な退場をよくかみしめ、成長の糧にしてほしいと切に願う。 ともあれ、中東での大会では細心の注意を払う必要がある。安易に「中東の笛」と言いたくはないが、判定基準はJリーグとは明らかに異なるように見えるし、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が介入する頻度も高いように思う。ちょっとした油断が思わぬ事態を引き起こしかねない。 実は、今回のU-23日本代表には、中東での大会の怖さを骨身に染みて熟知している人物がいる。団長の山本昌邦氏(日本協会ナショナルチームダイレクター)だ。「谷間の世代」と呼ばれていたチームを率い、2004年アテネ五輪出場を目指した山本氏はアジア最終予選で何度も想定外の事態に見舞われた。 当時の最終予選は12チームを4チームずつ3組に分け、各組1位が五輪切符を得る形。日本はアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、レバノンの中東勢と同組で、UAEと日本のダブルセントラル方式で戦った。 まず1回戦のUAEラウンドで、チーム内に原因不明の腹痛が蔓延(まんえん)。飲み水や食事にも気を付けていたが、最終戦のUAE戦前日には選手の半数以上が腹痛を訴え、それまでにコーチとしてさまざまな遠征に参加してきた山本氏にとっても「これだけ大量に同じタイミングで出るのは記憶にない」ほどの異常事態となった。