ホンダ&日産「経営統合」の背景に台湾巨大企業による買収の動き、最高戦略責任者は「日産の元ナンバー3」だった
鴻海からの買収を回避しようと、急遽、日産とホンダが歩み寄り、経営統合交渉に向かうことになった可能性が高い。 その鴻海でEV事業の最高戦略責任者を務めるのが日本電産(現ニデック)で社長を務めた関潤氏だ。関氏は2023年から現職にある。鴻海に転じた直後に筆者がインタビューした際に関氏は目標をこう語った。 「世界の総人口80億人のうち、所得から見て車を購入できる人は20億人程度。そのうちEVを買えるのはわずか1億人だけです。そこで鴻海が攻めていくのは、車は買えるけどEVには手が届かない、19億人の部分です」 関氏は2020年にニデックに移る前は、日産でナンバー3のポストである副COO(最高執行責任者)を務めた。それ以前も異色のキャリアで、1984年に防衛大学を卒業後、自衛隊に入隊。除隊後の1986年に日産に入社し、エンジンの製造技術部門での経験が長く、英国や米国にも駐在した。2014年からは中国の合弁会社、東風汽車で社長に当たる総裁を務めた。日産関係者が関氏についてこう話す。 「西川廣人社長が退任後、当時専務だった関氏が最有力の社長候補で、指名委員会も関氏を推したが、日産の経営権を握っていたルノーが関氏は手強いと見て、操りやすい内田氏を推薦した結果、形勢が逆転して内田氏が社長レースに勝った」 関氏を知る別の日産元役員は「視野が広く、縦割り組織に横串を刺すのがうまいため、改革を担えるタイプ」と評する。実際、2018年にカルロス・ゴーン氏逮捕後に日産の業績が傾いた際に進めた事業構造改革「日産NEXT」を中心になって策定したとされる。 関氏が古巣の日産に対して買収を仕掛けようとしていると見られる。その構図は、「逆襲」のように映ってしまう。 ■特集全文公開:ホンダ&日産が経営統合へ、巨大連合“誕生”の裏で起きていた内幕 水面下で蠢いた“台湾の巨大企業”と日産“元ナンバー3”の逆襲 【プロフィール】 井上久男(いのうえ・ひさお)/1964年生まれ。ジャーナリスト。大手電機メーカー勤務を経て、朝日新聞社に入社。経済部記者として自動車や電機産業を担当。2004年に独立、フリージャーナリストに。主な著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』などがある。 ※週刊ポスト2025年1月17・24日号