平幕若隆景、2年8カ月ぶりの初日から3連勝「下から前へ出る相撲が取れた」 美ノ海を押し出しで〝料理〟/九州場所
大相撲九州場所3日目(12日、福岡国際センター)元関脇で優勝経験もある東前頭2枚目の若隆景(29)は、美ノ海(31)を押し出して3連勝。3大関は新大関大の里(24)が小結正代(33)を押し出し、豊昇龍(25)は平戸海(24)を押し出し、ともに3連勝としたが、琴桜(26)は9月の秋場所で敗れた王鵬(24)に押し出され、初黒星を喫した。豊昇龍、大の里に平幕の若隆景や熱海富士(22)ら7人が勝ちっ放し。 2歩目が、速い。左足から鋭く踏み込んだ平幕若隆景の右足が、追いかけるように前へ出る。頭を上げず、美ノ海に圧力をかけ続けて一気に押し出した。 「下から前へ出る相撲が取れた。一番一番、一生懸命取るだけ。そういう気持ちで土俵に上がっていきたい」 幕内で初日からの3連勝は関脇で初優勝を果たした令和4年春場所以来だ。昨年春場所中に右膝靱帯(じんたい)を損傷。再建手術を施し、4場所連続休場を余儀なくされた。再起した昨年九州場所は東幕下6枚目。今場所は上位総当たりの番付まで戻してきた。体重も自己最重量140キロ台となり、師匠の荒汐親方(元幕内蒼国来)は「思っていた以上に早く上位に戻り、思い切り取っている」とうなずいた。 10月の秋巡業は右膝の炎症で途中離脱。稽古でも番数を増やすと膝へストレスがかかるため、師匠は「20番を超えないように」と制限し、稽古の一番にも精度を求める。 初日。荒汐部屋のちゃんこは「あら鍋」だった。あら(クエ)は九州地方の冬の極上の味覚といわれ、漁獲量が少なく幻の魚とも呼ばれる。その前日に若隆景が仕込みをする調理場に立った。若隆景の趣味は「魚をさばくこと」。福島市内の実家はちゃんこ料理店を営んでおり、超薄切りにした刺し身、鍋用と手際よくおろしていった。 美食家で知られた芸術家の北大路魯山人は素材の持ち味を見定め、不自然な虚飾を戒め「料理とは理(ことわり)を料(はか)る」と看破した。理にかなった技法を追及し、魚をおろす包丁さばきには刃の感覚を探る、想像と集中が必要とした。土俵に通じる繊細さと判断力。若隆景が、目の前の相手を〝料理〟していく。(奥村展也)