全編で「考えさせられた」ドラマ 「海に眠るダイヤモンド」はなぜ、視聴率が低調だったのか
考えさせる作品と視聴率の関係
TBS「日曜劇場 海に眠るダイヤモンド」は感動をもたらしてくれた。一方で視聴率の低さが話題になった。全回平均の世帯視聴率が8.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。確かに高くはない。しかし、この作品のように「考えさせられるドラマ」は、昔から視聴率を獲りにくいのである。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】 【写真】「ほんとに“超一流”ばっかりじゃん…」 豪華すぎる”海に眠るダイヤモンド”の出演者たちを見る ***
「海に眠るダイヤモンド」は考えさせられる作品だった。愛郷心、異性を愛する思い、友愛、家族愛、原爆被災者への鎮魂、戦後日本の礎を築いた人たちへの感謝、人生の無常――。これほど多岐にわたって考えさせられた作品も珍しい。 一方で世帯視聴率は高まらず、2桁台に乗ったのは第1回の11.0%のみ。しかし、この結果に大抵のドラマ制作者たちは納得したのではないか。考えさせられるドラマは高視聴率になりにくいのだ。昭和期から現在に至るまでそう。 たとえば、世界的脚本家・坂元裕二氏(57)の作品は毎回、いくつかの問題について視聴者に考えさせる。フジテレビ系「大豆田とわ子と三人の元夫」(2021年)の場合、自分らしく生きようとする女性(松たか子)の恋愛観や家族観、友人(市川実日子)を失った喪失感などが繊細に描かれた。 観る側は主人公の生き方の是非を考えたり、自分の生き方を見つめ直したり。ドラマ界の話題をさらい、文化庁の芸術祭賞優秀賞などを得たが、全回平均の世帯視聴率は6.1%にとどまった。このときも視聴率の低さが話題になった。 同じ坂元氏が、人間の多面性や友人関係のあり方などについて考えさせた日本テレビ「初恋の悪魔」(2022年)も低視聴率だった。全回平均の世帯視聴率は4.6%。一方でギャラクシー賞マイベストTV賞の2位になるなど評価は高かった。 そもそも視聴率と作品の質はシンクロしないものなのである。宮藤官九郎氏(54)もやはり現代を象徴する脚本家でありながら、視聴者に考えさせるということもあり、高視聴率がなかなか獲れない。 TBS「不適切にもほどがある!」(2024年)も笑いでコーティングされていたが、考えさせられる作品だった。親子愛、生と死、時代と自分の関係。実は哲学的な物語でもあった。 時代によって大きく違う価値観をコミカルに描いたところがウケ、超が付くほどの話題作になったが、全回平均の世帯視聴率は7.4%。ATP賞テレビグランプリに輝くなど賞を総ナメにしたものの、視聴率は獲れなかった。 やはり宮藤氏が書いたフジ「新宿野戦病院」(2024年夏ドラマ)も秀作だった。宮藤氏が傾倒する山本周五郎の小説『赤ひげ診療譚』をモチーフとし、東京・新宿歌舞伎町にある小病院の医師たちが、弱者たちを救った。 不法難民、高齢の元ヤクザ、不良少年少女……。こういった人々を社会が禁忌しがちなことへの宮藤氏の静かな怒りが込められていた。やっぱり考えさせる作品だった。全回平均の世帯視聴率は6.4%に終わった。