吉永小百合、渡哲也ら“銀幕のスター”が戦後日本の愛や人生のドラマを映し出す
CS放送「衛星劇場」では、8月に「終戦79年 映画に見る戦後の日本」と題して終戦間際や戦後を舞台にした映画を特集放送する。完全版としてテレビ初放送となるドキュメンタリー映画「広島・長崎における原子爆弾の影響」のほか、吉永小百合、浅田美代子らによる全9作がラインアップ。そこで今回は“銀幕のスター”と呼ばれた俳優陣の魅力に迫りながら、各作品を紹介していく。 【写真】岸惠子と佐田啓二が日中カップルを演じた「亡命記」 ■“銀幕のスター”とは かつて映画館の映像を映す幕=スクリーンの一種で、映像を鮮明に映すために銀の素材を使ったものを「Silver screen(銀幕)」と呼んでいた。初期のサイレント映画時代から用いられていたというが、そこから映画自体を銀幕と言ったり、映画に出演するスター俳優のことを“銀幕のスター”と称するようになった。 銀幕のスターたちは雲の上の存在でありつつ、作品の中ではさまざまな役を通して、感動をもたらしてくれた。 79回目の終戦記念日を迎える8月に放送される今回の特集では、映画の黄金期でもあった1950年代~70年代にかけて制作された銀幕のスターが出演する作品がそろう。彼らが演じるのは、戦後の日本で生きる人々だ。 ■岸惠子と佐田啓二が夫婦役に 8月11日(日)昼11:00ほか放送の「あした輝く」(1974年)は、里中満智子の同名漫画を原作に、浅田美代子主演で、終戦末期の満州(中国)から戦後の混乱期の日本を舞台に一つの愛を貫いた女性の半生を描く。浅田は本作の前年にドラマ「時間ですよ」の第3シリーズでデビューして一躍脚光を浴びたばかり。初々しさを残しつつ、ほのかな恋をする16歳から母として強く生きる20代前半までの波乱に満ちた日々を丁寧に演じた。 8月12日(月)昼11:00ほか放送の岸惠子と佐田啓二による「亡命記」(1955年)。2人は1953~1954年に公開された3部作映画「君の名は」が大ヒットし、押しも押されもせぬ銀幕スターとなっていた。「君の名は」のドロドロ劇においてまさに美男美女で見る者を引き付けた2人。本作では戦後初の香港ロケを行いながら、岸が日本人女性、佐田が中国人男性に扮(ふん)し、演技力の高さで戦争によって翻弄(ほんろう)される夫婦の機微を見せる。 ■吉永小百合、渡哲也らが戦後日本の人物を熱演 8月13日(火)昼12:00ほか放送の「愛と死の記録」(1966年)は、吉永小百合と渡哲也が初共演。原爆症の青年にひたむきな愛を捧げる女性の純愛が大きな感動と涙を誘う作品だ。東宝、東映、松竹、大映と並んで日本の大手映画会社に数えられた日活の黄金期を支えた吉永と渡だが、この作品のときには既に60本以上の映画に主演、出演して、そのかわいらしさで男女問わず多くのファンの心をつかんでいた吉永と、出演作は10本以上だったが前年に映画デビューしたばかりの渡というフレッシュな顔合わせ。とはいえ、大抜てきされた渡は、それまでのアクションものが多かった芝居から、本作で求められる繊細な心情表現を見事に披露し、「第17回ブルーリボン賞」新人賞に輝く評価を得た。 8月17日(土)昼11:00ほか放送の「海はふりむかない」(1969年)は、西郷輝彦主演の青春メロドラマ。窮屈な実家を飛び出して自由に生きる礼次(西郷)が、エリートコースを歩む兄が捨てた美枝(尾崎奈々)に同情。そんなある日、美枝が被ばくによる原爆症に冒されていることを知るという物語だ。1964年に歌手デビューし、橋幸夫、舟木一夫と共に昭和歌謡の“御三家”と呼ばれた西郷。本作でも主題歌を担当し、甘い歌声で魅了している。 8月15日(木)朝11:00ほか放送の「長崎の歌は忘れじ」(1952年)は、戦時中に知り合った日本兵から未完の楽譜を託されたアメリカ人が、戦後日本でその日本兵の家族を探すというストーリー。同作で原爆によって盲目となった女性を演じる京マチ子は、黒澤明監督の「羅生門」(1950年)や溝口健二監督の「雨月物語」(1953年)などの名作に多数出演している。 8月10日(土)朝11:00ほか放送の「肉体の門」(1964年)は、奇才といわれた鈴木清順監督作。同名小説を1948年のマキノ雅弘監督に続いて再映画化した。終戦直後の東京で夜の商売をする女性たちを描いた本作で、野川由美子が映画デビュー。戦争で多くのものを失わざるをえなかった悲しみ、それでもたくましく生きるヒロインを体当たり演技で表現し、銀幕スターへの片りんを見せつけた。 8月14日(水)昼0:00ほか放送の「銀心中」(1956年)は、のちに夫婦となる新藤兼人監督と乙羽信子の作品。戦死したはずの夫が帰還するが、妻は夫の甥と新しい生活を始めていたという戦争が生んだ悲劇を描く。宝塚歌劇団で活躍後、新藤監督が脚本を担当していた「處女峰」(1950年)で映画デビューした乙羽。昭和を代表する俳優の一人となっていくが、本作では“百万ドルのえくぼ”というキャッチフレーズがついた若きスター時代の可憐さが見られる。 8月18日(日)朝10:45ほか放送の「不毛地帯」(1976年)の原作は、山崎豊子の同名小説。当時まだ連載中だった物語を、名匠・山本薩夫がメガホンをとっていち早く映画化した。社会派といわれた山本監督らしく、昭和30年代の次期主力戦闘機選定を巡る商社と政治家の暗躍を熱く描き出した。“オールスターキャスト”ともいえる仲代達矢、丹波哲郎、北大路欣也、田宮二郎、八千草薫らが顔をそろえ、演技バトルの熱さも見応え十分だ。 昨今、映画を中心に活躍する俳優に対しても“銀幕のスター”という言葉が使われる機会はあまりないかもしれないが、今回の特集で戦後の日本に勇気を与えた“銀幕のスター”の魅力をあらためて感じつつ、忘れてはいけない「戦争」について今一度考えるきっかけになればと思う。 ◆文=ザテレビジョンシネマ部 ※記事内「長崎の歌は忘れじ」の「崎」はタツサキが正式表記