大手企業で「アルムナイ採用」が急増する背景…人材採用の新しい波に
「アルムナイ採用」を導入する大手企業が増えている。人手不足、人材獲得競争の激化を背景に、一度退職した社員を再雇用する制度が「アルムナイ採用」だ。 スキマバイトアプリ「タイミー」上場でサイバーエージェント藤田晋氏は71億円を手に 「アルムナイ」は卒業生、同窓生を意味する英語で、人事分野では定年退職者を除いた企業の退職者を指す。千葉商科大学の常見陽平准教授が説明する。 「自社の仕事や文化を理解している社員の再雇用は即戦力となり、外でいろいろな経験やスキルを蓄積して新たな人脈を持つアルムナイの獲得は、組織の活性化を期待する企業側の要請です」 ■深刻な労働力の構造変化 帝国データバンクによると(8月22日発表)、正社員が不足している企業の割合は51%と人材、人手不足で深刻な状況が依然続く。就業者の高齢化も課題で、総務省の「労働力調査」では、60歳以上の労働者は21.8%で過去最高を記録、一方、20~34歳の割合は23.2%と年々低下。近く60歳以上の割合を下回ることが予想される。こうした深刻な労働力の構造変化が「アルムナイ採用」を増やす背景にある。同社の情報統括部・飯島大介氏がこう述べる。 「人材不足で自社の企業文化を理解し、業績に貢献してくれる社員を見つけることが難しくなるなか、アルムナイ活用は銀行や商社、メーカーで増えています。退職者を良く思わない以前の企業文化が大きく変わってきたということです」 アルムナイは出戻り制度、カムバック採用、ジョブリターン制度といった望まない退職のケースや定年後の再雇用とは違い自主的に退職した社員。起業や転職を理由に「アルムナイ会」を立ち上げるOBが増えているが、退職後に元の会社に再就職するケースばかりではなく、互いのビジネスを支え合うことを目的に立ち上げたアルムナイ会は多い。 「大学が同窓会組織を持つように会社が同窓会組織を持つ。例えば大手出版社を退職した人が、元の出版社から仕事を持ってきて皆で分かち合うといった、ネットワークがビジネスを支える時代になりつつあります」(前出の常見准教授) 大手商社のアルムナイ会のメンバーの年齢は40歳以下のいわば中堅幹部が多いが、迎え入れる企業にとって期待する一方、懸念もある。人事部にアルムナイ採用のチームを持つ大手自動車メーカーの幹部がこう述べる。 「優秀な人材の転職が増え、戦力ダウンを補うためアルムナイがいたら声をかけてと言われています。職場は常に外から若い人材が入り変化しています。そのなかでアルムナイ採用のOBが入ることで職場のコミュニケーションが保てるか不安があります」 民間企業だけでなく、東京都や官庁でもアルムナイ採用の取り組みが始まっている。人材採用に新しい波が起きている。 (経済ジャーナリスト・木野活明)