「スラムダンク」から変わらず数十年、日本アニメの没落
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世界市場で韓国を代表するコンテンツ産業がドラマやK-POPだとすれば、日本を代表するコンテンツ産業は、誰がなんと言ってもアニメだ。日本の商業アニメの歴史は何と100年を超える。1917年に『芋川椋三玄関番の巻』という作品が製作されて以来、日本は世界市場で商業アニメ大国と認識され続けてきた。 日本アニメの市場規模は全世界の市場の60%で、世界1位だ。年間2兆7000億円の規模は韓国のゲーム産業に匹敵する。しかし、日本のコンテンツ市場の核心的な産業に位置するアニメ産業は、徐々に老いつつある。業界従事者だけでなく、中核となる消費層も一緒に老いている。 かつては全世界に「アニメ」という言葉を定着させ、日本アニメを好むファン層を意味する「オタク」という用語を全世界に広げた日本のアニメ産業に何が起きているのだろうか。 ■日本アニメの黄金時代 多くの人が日本アニメの全盛期は1980~1990年代だと考える。この時期は日本のバブル経済と時代を同じくする日本文化の最盛期でもある。当時の日本文化は、現在の韓流のように、内需市場を越えて世界市場を積極的に攻略した。特にアニメはその先鋒にいた。1980年代の欧州の放送局のアニメーションの編成のうち70%が日本作品だったという事実は、当時の影響力をよく示している。 また、バブル経済時代の日本は、文化的な力量が爆発した時期でもあった。特に注目すべき点は人材の流入の経路だ。1960年代の左翼学生運動の影響で既存の企業への就職が難しくなった高学歴者が大挙して文化産業に参入した。 幼いころから漫画とアニメに接して育ってきたこれらの人たちは、単純な労働力ではなく「教養ある創作者」だった。彼らが1990年代に入り中堅クラスに成長すると、日本アニメはルネサンスを迎える。『AKIRA』『攻殻機動隊』『新世紀エヴァンゲリオン』などのような傑作がこの時期に誕生した。 これらの作品は、単なる娯楽を越え、深みあるストーリーと時代精神をみせた。アニメという媒体を用いて、社会批評や哲学的な議論まで扱った。自然と全世界の若者層の熱狂的な支持を得るようになり、2000年代初期には、日本アニメはX世代(1965年から1970年代生まれの世代)を象徴するグローバルな文化コードに位置することになった。 当時は、日本アニメのこのような成長は続くかのように思えた。しかし、2000年代後半に入りインターネットが本格的に普及し、オンラインゲームやユーチューブのような新たなメディアが登場すると、状況が変わり始めた。若い世代の注目をひきつける新たな代替材が登場したのだ。 このような変化の時期に、当時の日本アニメ業界が下した2つの選択は、振り返ってみると強い毒になった。その誤った選択の1つ目は、「やりがい搾取」に象徴される制作現場の労働搾取を改善しなかったことであり、2つ目は、新たな挑戦の代わりに、検証済みの知的財産権(IP)の再利用ばかりにぶら下がったことだ。 かつてはアニメが好きな若者たちに夢の職場とみなされたアニメスタジオは、いまでは若者たちが忌避する代表的なブラック企業になった。月平均219時間で一般の会社員より30%も長く仕事をしながらも、最低賃金にも満たない給与しか得られないところを、誰が進んで志願するだろうか。 統計はこのような現実を赤裸々に示している。4年目までに25%が退社し、8年目になると68%が業界を離れる。2023年時点での業界従事者の平均年齢は42.7歳だ。10年前より7歳上昇した。若い血が輸血されない産業の悲しい自画像だ。 ■過去の栄光ばかりに期待する現実 さらに大きな問題は、新鮮さが枯渇していることだ。2023年の日本国内での興行上位のアニメ10作品のうち7作品が、1980~1990年代の作品のリメイクだった。制作されてから数十年が経過した『スラムダンク』や『名探偵コナン』『ドラえもん』のような作品が上位にあるのは、喜ばしくも苦々しい。現在の日本アニメ業界には、新しい試みよりも検証済みのIPの再利用が蔓延している。30年前の作品のノスタルジーを売ることが最も安全な選択になったのだ。 なぜこのような選択をしたのだろうか。答えは意外に単純だ。過去のファンたちが現在一番強力な消費者になったためだ。1980~1990年代にアニメをみて育ったX世代とオールド・ミレニアム世代は、今では安定した購買力を持つ40~50代になった。業界のこのような選択は、一見すると合理的に思える。実際、2023年に公開された『THE FIRST SLAM DUNK』は全世界での興行収入が2億7000万ドル(約430億円)を記録し、『ONE PIECE FILM RED』は1億8000万ドル(約280億円)の収益を上げた。このように制作費の回収が確実な検証済みのIPに頼ることは、不確実性の高いコンテンツ産業としては、当然の選択であるかのように思える。 しかし、これは結果的には創作の悪循環を生んだ。新たなIP開発に対する投資は徐々に減り、若い創作者の挑戦の機会も減った。日本アニメーション協会の資料によると、2023年の日本のアニメ業界の新規IPへの開発投資額は、10年前の半分の水準にまで低下した。 特に懸念されるのは、リメイクや続編が原作のオーラに依存しているだけの傾向だ。一部の専門家は、過去の作品の看板を借用しただけで、当時の作品が持っていた時代精神やチャレンジ精神は消えたとし、乱立するリメイクの問題点を指摘する。 実際、1980~1990年代に日本アニメの黄金期を牽引した作品は、当時としては型破りな試みだった。『AKIRA』はサイバーパンクという新ジャンルを切り開き、『新世紀エヴァンゲリオン』は既存のロボットアニメの文法を完全にひっくり返した。日本アニメ界の巨匠、宮崎駿が率いる「スタジオジブリ」の作品は、環境、戦争、成長という普遍的なテーマをアニメに昇華させた。 その反面、最近のリメイク作品は過度に安全な選択に固執する。原作の人気シーンを派手なグラフィックで再現し、ノスタルジーを刺激することに重点を置くだけで、新たな解釈や挑戦は見出せない。さらに大きな問題は、このような戦略が新世代の共感を得ることができないという点だ。Z世代(1990年代半ばから2010年代初めに生まれた世代)の観客にとって1980~1990年代の作品は「親の世代の文化」と認識されている。いくら優れた作品であっても、30年前の社会的な流れや雰囲気を知らない人たちには共感の壁が存在する。 こうしたことは、日本アニメが直面する本質的なジレンマを示している。安定した収益のために既存のファン層を捉えようとすればするほど、未来の潜在的な消費者からますます遠ざかることになる。結局のところ、これは産業の持続可能性を脅かす要因にならざるをえない。 ■新しい世代との断絶 現在、日本アニメ業界は総力を尽くしてZ世代を顧客層に引き込むために努力しているが、Z世代のコンテンツの消費パターンは完全に異なる。1日平均117分の動画視聴時間のうち68%をショート動画に費やす人たちにとっては、24分の正統なアニメでさえ長すぎる。 これらの層が好むストーリーの形式も違う。Z世代の72%が多様な結末を望み、68%が自分の好みに合うコンテンツだけを消費する傾向を示す。一方、既成世代(旧世代。現在の社会の中核を担う世代も含む)の81%は今でも変わらず、伝統的なストーリーテリングにこだわる。世代間の文化的断絶がいかに深いかを示す部分だ。 特に注目すべきことは、Z世代のコンテンツ消費は単なる「視聴」を越えるという点だ。Z世代はコンテンツを「経験」して「参加」することを望む。ソーシャルメディアで2次創作物に拡張されファンアートとして再生産される過程は、Z世代にとっては自然な文化消費の一部だ。 しかし、日本のアニメ業界は依然として作品と作家の権威を立てている。原作の完結性を重視し、制作者中心の一方向的なストーリーの伝達に固執する。最近ではやや開放されてきた雰囲気だが、2次創作に対しても厳格な基準を設けるところが多い。Z世代が好む開かれた構造のストーリーや参加型のコンテンツとはかけ離れたアプローチだ。 このような世代間の断絶は、市場の構造に根本的な変化をもたらした。2010年代初めまで、日本アニメの主な収入源はDVD/ブルーレイの販売だった。所有する価値を重視する既存のファン層の特性を反映したビジネスモデルだった。 しかし、ストリーミング(リアルタイム再生)時代の到来でこのような構造は急激に崩壊した。Z世代の82%はサブスクのサービスを利用する。「所有」ではなく「接近」に価値を置くのだ。さらに、ユーチューブやTikTokのようなショート動画のプラットフォームの成長は、既存のアニメ産業の根幹を揺るがしている。 日本のアニメ産業の危機は、単なる1ジャンルの衰退ではない。これはデジタル転換期に伝統的なコンテンツ産業が直面する本質的な挑戦であることを示している。新しい世代の登場、技術の変化、消費方式の進化は、避けられない時代的な流れだ。 このような日本のアニメ産業でみられる最近の高齢化現象は、韓国のコンテンツ産業にも多くの示唆点を与える。韓国のコンテンツ産業がこのような危機から逃れるためには、現在の成功に安住することなく、さらなる果敢なイノベーションが必要だ。新世代との文化的共感の形成、公正な労働環境の構築、絶え間ない創作の挑戦。これが韓国のコンテンツ産業が解決すべき課題だ。 特に重要なのはバランスだ。検証済みのIPの活用と新しい試みのバランス、既存のファン層の忠誠度の維持と新たな消費者層の確保のバランス、収益性と労働環境改善のバランスだ。このようなバランスを見出すことができないのであれば、韓国も日本と同じ道を歩まざるをえないだろう。 ムン・ドンヨル|コンテンツ産業コラムニスト (お問い合わせ japan@hani.co.kr )