給料が125%UP!?…アメリカの自動車労働組合がストライキで使った革新的な「手法」
「終わりのない成長を目指し続ける資本主義体制はもう限界ではないか」 そんな思いを世界中の人々が抱えるなか、現実問題として地球温暖化が「資本主義など唯一永続可能な経済体制足りえない」ことを残酷なまでに示している。しかしその一方で、現状を追認するでも諦観を示すでもなく、夢物語でない現実に即したビジョンを示せる論者はいまだに現れない。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句し 本連載では「新自由主義の権化」に経済学を学び、20年以上経済のリアルを追いかけてきた記者が、海外の著名なパイオニアたちと共に資本主義の「教義」を問い直した『世界の賢人と語る「資本主義の先」』(井手壮平著)より抜粋して、「現実的な方策」をお届けする。 『世界の賢人と語る「資本主義の先」』連載第10回 『「大統領が直接労働者を激励」!? 日本人の想像をはるかに超えるアメリカの「ストライキの実態」』より続く
ストライキを成功させた革新的な戦術
フェイン執行部は、要求内容だけでなく、戦術的にも革新的な手法を採用した。従来のUAWのストはGMならGMと、ターゲットとなる会社を定め、その会社のすべての工場でストを打っていた。これに対し、2023年の賃金交渉では、3社すべての工場からストの対象を選定し、しかも事前に次のスト先を予告せずに徐々に対象を増やしていくという戦術を採った。 アメリカではストの最中に会社側が代替要員を連れてきて工場のラインなどに就かせることが認められているが、このように抜き打ちでストをやられると、会社側はそのような準備がまったくできない。業績への影響予想も立てられなくなる。実際、フェイン会長はフォードとの交渉の中で、会社側が新たな提案を出してこなかったことへの対抗措置として、フォード工場の中でも最大で、ドル箱のピックアップ・トラックなどを生産していることから利益面での貢献も最も大きいケンタッキー州ルイビル工場のスト入りをその場で決断。ケンタッキー支部に指示を出し、同工場はその日の晩からストに入った。 こうした本気の交渉が実を結び、UAWは今後4年半で25パーセントもの賃金アップをビッグスリーから勝ち取った。これは過去20年以上の昇給幅を上回る増加だ。それだけでなく、見習い工レベルの時給から最高ランクの時給に到達できる年数を大幅に短縮したほか、ティア・システムも廃止。インフレに合わせて賃金も上がる物価スライドも認めさせるなど、近年には想像すら難しかったような大幅な譲歩を次々と勝ち取った。