大相撲の「土俵では目立ってはいけない」「目の前の一番に集中するだけ」…三役行司・木村寿之介さん
大相撲の九州場所が今年も福岡国際センター(福岡市)で開催されている。一年納めの土俵では熱い勝負が繰り広げられ、チケットは28年ぶりに15日間完売。九州出身でご当所場所に臨むのは、力士だけではない。大盛り上がりの国技を支えている人たちを紹介する。 【表】大相撲の主な協会員の格付け
三役行司・木村寿之介さん(57)(本名・波田寿和、大島部屋)
鮮やかな装束に身を包み、軍配を上げる姿には風格が漂う。ただ、行司として常に心掛けていることがある。「土俵では目立ってはいけない」。主役はあくまで力士と肝に銘じ、数多くの取組を裁いてきた。
鹿児島県徳之島町の出身で、元小結旭道山の弟。子どもの頃は相撲に全く興味がなかった。中学生の時、兄が大島部屋で砂だらけになりながら稽古に励んでいる姿を見て、「少しでも兄の力になりたい」と思うようになった。県立高校の入試に合格していたが、当時のおかみさんの母親からの勧めも後押しとなり、行司の道を歩み始めた。
初土俵は1983年夏場所。行司の先輩から所作や構え方をたたき込まれた。その時に教わった基本を今でも最も大切にしているといい、「どうしてもみんな独特に崩れていく。そうならないように気をつけている」と話す。国技である伝統文化の担い手であり、力士の活躍を引き立てる裏方としての信念だ。
九州場所はふるさとに帰ってきたような雰囲気があり、毎年楽しみにしている。土俵の外でも、巡業の準備や若手行司の指導など仕事は多いが、「土俵に上がったら余計なことは考えない。目の前の一番に集中するだけ」。勝負に対する思いの強さは、力士と変わらない。
祭主や触れ太鼓、多彩な役割
興行では、それぞれが多彩な役割をこなしている。
行司は取組を裁くほか、場所の安泰を願う土俵祭で祭主を務めたり、場内アナウンスを担当したりする。取組前に力士のしこ名の呼び上げを行う呼び出しは、土俵作りや整備、懸賞旗の掲示、本場所の開催を知らせる触れ太鼓などを担う。力士の髪を櫛とびんつけ油などを使って結う床山は、支度部屋で手際よくまげを整える職人だ。
行司、呼び出し、床山のいずれも力士の番付と同じように格付けがあり、経験や能力を評価されて昇進する。佐賀県嬉野市出身で一等床山の床中さん(本名・中山紀久雄、錦戸部屋)(64)は、来年初場所の番付が発表される12月23日付で特等床山に昇進することが決まっている。