マイナ保険証の「メリット」は“真っ赤なウソ”だった?…“政府資料”が物語る医療現場での「役立たずな実態」とは
医療情報を「リアルタイムで共有」できるのは“遠い未来の話”
実は、リアルタイムに医療情報を共有する方法はあるにはあります。巨大な電子カルテシステムを作って共有する方法です。こちらが実現すれば理論上はリアルタイムに情報が反映され、共有できます。 ただし、大きなハードルがあります。 一つは、そもそもカルテを紙でやっているところがまだまだ多いということが挙げられます。 厚生労働省の資料によると、2020年の普及率は一般病院で57.2%、一般診療所で49.9%と、ようやく半分を超えたか超えないかといったところです。 調べてみると、厚生労働省は電子カルテの義務化に動いているものの、小規模病院などでは便益を感じにくいにもかかわらず多額の金銭的負担が生じるといった問題があります(補助金はありますが、金銭的負担はその上限を超えるとの指摘も散見されます)。 もう一つが、電子カルテと一口にいっても2000年ごろから各医療機関がそれぞれに導入してきたために開発事業者が異なり、データの型がバラバラだという大きなハードルです。それを標準化しなければ、医療機関を越えて共有できないのです。 つまり、政府CMのような、あたかも医療機関を横断してカルテ情報にリアルタイムにアクセスできるかのような広告は、贔屓目(ひいきめ)に見ても実態と著しく乖離(かいり)しています。 そもそも電子カルテシステムはマイナ保険証と何の関係もなく、マイナンバーを使わないと技術的にできないことなどありません。
救急医療の足を引っ張るマイナ保険証
ここまでマイナ保険証を活用しても、医療の質が向上しないことを説明してきました。しかし、問題はそれにとどまらず、医療の質を低下させる事態も起こり得ます。 それは、マイナ保険証を「救急医療」に利用することによって生じる事態です。 マイナ保険証の救急医療への利用とは、交通事故や心筋梗塞、脳梗塞などで救急車が出動した際、「傷病者が意識のない状態であっても、マイナ保険証でマイナポータルにログインすれば資格確認もできるし、過去の診療履歴や投薬履歴を得られるので、適切な救急活動が迅速にできる」というものです。 しかし、これが「外に出して恥をかく前に誰か止めなかったのかな」と思ってしまう話なのです。 すでに述べてきたとおり、マイナポータルにログインしても、最新の診療履歴も投薬履歴も得られません。最も新しい場合でも1か月半前の情報です。 直近1か月半の間に、どんな医療を受けて、どんな薬を飲んでいたかわからないような情報は、使い物になりません。 また、一刻を争う緊急事態にあって、資格確認なんて必要ないでしょう。マイナ保険証をカードリーダーで読んでマイナポータルにログインする作業は救急活動のじゃまになります。 認証に時間がかかりますし、エラーが出る場合もあり得ます。病院に到着するまでの搬送中に、できうる限りの救急処置を施さなければならない救急隊員が、マイナ保険証を扱っている暇などありません。 そもそも傷病者が全員、マイナンバーカードを携帯しているかどうかもわかりませんし、マイナンバーカードを持っていてもマイナ保険証に登録しているかもわかりません。 その一方で、全国のすべての救急車にカードリーダーを搭載しなければならないという大きなコストも発生しつつ、緊急時にあるかどうかもわからないカードを本人の身体からガサガサと探さないといけないのです。 なんらメリットがないだけでなく、救急活動を阻害し、医療の質を低下させるのは目に見えています。