ギンザメの新種が見つかる、3億7500万年前から変わらぬ姿の深海魚 定説覆した発見
ギリシャ神話に登場する怪物“キメラ”の異名も
ギンザメは約3億7500万年前の石炭紀に登場したと、今回の研究に参加した米ミラーズビル大学の魚類学者ドミニク・ディディエ氏は述べている。石炭紀は、サメが進化した時代でもある。 「驚くことに、当時の化石は現存するもの(ギンザメ)とそっくりです」とディディエ氏はメールで説明する。「そのため、これらの魚は『生きた化石』と見なされることもあります」 名前とは裏腹に、ギンザメは普通のサメとは遠縁にあたる。滑らかな皮膚や軟骨の骨格はサメとの共通点だ。オスはクラスパー(交尾器)でメスの体内に精子を送り込み、メスは卵嚢(らんのう)を産み付ける。 奇妙な外見から、ギンザメはキメラとも呼ばれている。キメラはギリシャ神話に登場する怪物で、ライオンの頭とヤギの胴体、ヘビの尾を持つ。 ディディエ氏によれば、ギンザメについてわかっていることのほとんどは、ROVの映像と飼育下にある3種の観察で得られた情報だという。現在、スポッテドラットフィッシュ(Hydrolagus colliei)、ゾウギンザメ(Callorhinchus milii)、ケープエレファントフィッシュ(Callorhinchus capensis)が飼育されている。 「彼らは深海に生息しており、野生の個体を観察するのは非常に困難なため、社会的行動や習性はほとんどわかっていません」とディディエ氏は説明する。「成魚と稚魚は別々に暮らしているようで、オスとメスも別々の群れをつくっている可能性があります」
背びれの前方の鋭いとげ、人に刺さった報告も
ギンザメは海底の食物網にとって主要な種である可能性が高い。フィヌッチ氏によれば、捕食者として、カニや軟体動物、タコといった海底の生物をくちばしのような歯で狩っている。また、ヒョウアザラシなどの大型動物にとっては獲物でもある。 ただし、ギンザメは簡単に捕食できる獲物ではない。背びれの前方に、大きく鋭いとげがあるためだとフィヌッチ氏は説明する。 「捕食者がとげに刺されたという記録がいくつかあります。人も含まれています!」 米フロリダ大学の生物学教授ガレス・フレイザー氏は今回の新種発見について、「素晴らしい発見であり、細部まで記述されています」とメールで評価している。また、「オーストラリアとニュージーランドの海はキメラの主な生息地」だという証拠が増えたことにもなる。 「野生動物の研究はすべて難しいですが、深海に暮らす動物の場合、このような研究は特に難しく、これほど優れた研究はめったにありません」。フレイザー氏は今回の研究に参加していない。
文=Tássia Assis/訳=米井香織