地震経過時間カウントアップ ── 「その時」までのカウントダウン/矢守克也・京都大学防災研究所教授
南海トラフの巨大地震・津波。政府の最新想定によれば、マグニチュード8~9クラスの地震の発生確率は、向こう30年間で70パーセント程度。「その時」までのカウントダウンは、今も着実に進んでいる。
避難シミュレーションで見え始めた課題と解決策
筆者らは、大きな被害が想定される地域の一つ高知県黒潮町で地域の津波防災のお手伝いをしている。その柱は、住民対象の徹底した個別調査(全世帯アンケート)に基づく避難シミュレーションと、高精度の津波浸水シミュレーションである。 避難シミュレーションによって、だれがどこを通ってどこにどのような方法で避難しようとしているのかについて細かく把握し、コンピュータ・グラフィックス(動画)として可視化する。他方、津波浸水シミュレーションを通して、地震から何分何秒後にどの地点まで津波がやって来る可能性があるのかについて検証し、その動画を先の動画を重ね合わせる。 その結果、多くの課題と解決策が見え始めている。たとえば、より安全だが自宅から遠い山まで避難しようとして、途中で津波に追いつかれると予想されるケースが多々あることがわかった。そこで浮上したのが方向転換策(避難先変更策)である。
「地震発生から5分経過!」とカウントアップするアイデア
詳細に分析すると、この地点を地震から10分以内で通過できていないなら、山はあきらめ、地区内にある避難タワーに逃げた方が安全率は高まるといったことが地区ごとにわかってくる。 津波に対する安全性がより高いのは、言うまでもなく自然地形の山や高台であるが、場合によっては次善の策、最後の拠りどころとしての避難タワーに避難先を変更しようというわけである。ちなみに、似たような地形的条件下にある地域は他にも多々あるので、同じジレンマに悩む住民の方々は他の地域にも多数おられる。 しかし、激震の直後に、地震発生からの経過時間を冷静に把握できる人は少ない。そこで提案したのが、たとえば「地震発生から5分経過!」とカウントアップするアイデアである。 これまでの訓練(試行)では、防災行政無線で経過時間を呼びかけてもらったり、「この先渋滞×キロ」といった道路情報のディスプレイを製作しているメーカーに協力いただき、自動的に経過時間を表示できるディスプレイを避難先変更の分岐点となる場所に置いたりした。