フルーツ“盗難”「誰がどのような目的で…」実態把握の難しさ “外国人が大量窃盗”の真相は?
「外国人が大量盗難」の真相は?
近年は外国人による農作物の盗難が報じられることが多く、“青いモモ事件”でも最終的にベトナム人2人が検挙されている。 山梨県警の担当者は「検挙実績から見ると、必ずしも外国人が多いとは言えない」としながらも、「その可能性も完全には否定できない」と言う。 日下部警察署管内で過去5年に発生した果実盗難の認知件数は年間10件程度で、うち検挙できているのは3割ほど。 「これらは、あくまで警察が被害届を受け取った件数なので、実際にはもっと多くの被害があると思われます。農家のみなさんも収穫期は忙しくて、多少の被害を受けても収穫作業を優先せざるを得ないのが現状です。 さらに、果実盗難は広大な畑の中で行われ、消費されればものが消えてしまうことから検挙の難しさもあります。誰がどのような目的で盗んでいるのか、正確には分かっていないことも少なくありません。 ただし、農家のみなさんが丹精込めて育てた果物の“一番おいしいところ”を持って行ってしまうのは許しがたいことですし、地域全体としては観光・産業の打撃にもなります。われわれ警察も、引き続き警戒を強化して、検挙に努めていく所存です」(同前)
窃盗犯への“裁き”
果実盗難は窃盗罪(刑法235条)にあたり、その罰則は「10年以下の懲役、または50万円以下の罰金」と定められている。しかし、被疑者(容疑者)が逮捕されたときは大きな話題になる一方、「有罪判決が出た」との報道を見聞きする機会が少ないように思えるが、不起訴になっているケースが多いのだろうか(※)。 ※ 日本の刑事裁判では、起訴されれば99.9%の確率で有罪判決が出ると言われている 山梨県甲府市を拠点とする後藤文哉弁護士は、「何を盗もうがあくまで窃盗罪であり、対象が果実だからといって不起訴になりやすいということはないと思います」として、考えられる“背景”を以下のように話す。 「果実盗難にかかわらず、被疑者の名前などが報道されるのは一部であり、多くの場合は報道されていないのではないでしょうか」 なお一般的に、不起訴になるかは「被害額にもよるが、示談が成立し、被害弁償ができているかなどが考慮される」(後藤弁護士)とのことだ。 農家にとって、農作物を盗まれることは収入源を奪われるに等しい。ただし、盗んだ相手に損害賠償請求することについて、後藤弁護士は「意味がないわけではありませんが、費用対効果を検討する必要はあるかと思います」と指摘する。 「たしかに、刑事事件の示談として被疑者から被害弁償を受けることができれば問題解決までの時間が短くて済みますし、弁護士に依頼する必要がないこともあるので、理想ではあります。 しかし、示談が成立しない場合は被疑者に資力がないことも多く、損害賠償請求をしても被害総額を回収できない可能性が否定できません。そして、もし訴訟で損害賠償請求するとなると弁護士に依頼するのが一般的なので、費用も時間もかかる上、賠償額が低くなったり、判決を得ていざ強制執行をしても、回収額が低かったりすることが考えられます」 農作物の盗難は、事件が発生してしまってからではできることが限られる。当事者の農家だけでなく、消費者一人ひとりが「情報に関心を持つ」ことも、被害発生の抑制につながるのではないだろうか。
弁護士JP編集部