フィンテックと少子化時代に銀行はどう変わるのか ── 浪川攻氏に聞く
地方銀行は給与水準の見直しを迫られる?
──地方銀行について言えば、今、スルガ銀行が大きな問題になっているわけですが、金融庁は地方銀行に対してどのような姿勢なのでしょうか? 浪川氏 ここ数年、金融庁は地銀に、今のビジネスモデル、経営戦略は限界だと。環境変化の中で、持続性がある、10年もちこたえられるような新たな経営戦略を構築すべきじゃないかという玉を投げてきました。だから一部では合併なども起きています。ただし、合併だけが選択肢ではなくて、規模を小さくするということもありますね。県内経済の規模が縮小するのに、県内経済で商売をしている銀行の規模が変わらないことはあり得ないわけです。銀行業界って、ほかの銀行と比べて年収が高い。果たして業務や収益力と比べて給与水準は見合っているのかどうか。給与水準を引き下げなければならないということもこれから出てくると思いますよ。 ──「安定で銀行を選ぶ時代は終わろうとしている」と本の最後を結んでいますね。 浪川氏 多くの地方銀行が県内トップクラスの給与水準なのですが、これからそういうことが成り立つのか、ここ1年の間に大きなテーマになってくると思います。しかし、給与水準を低くすると、優秀な人材が確保できないという問題も出てきますね。銀行は変わりたくても、なかなか変われないくらいデカいわけです。大きな船が急に曲がれないのと同じようにデカくて変えられないわけです。地銀は小さいとはいえ、一つの県の経済規模からしたらすごくデカい。なかなか県の状況に合わせて変わることができないということが一つと、フィンテックのプレーヤーなどが出現してくる5年くらい前まで、顧客は銀行からは逃げなかった。他行に移ることはあっても銀行業界から客が去ることはなかった。ところが新しい人たちがきた、つまりフィンテックプレーヤーは銀行ではないですから。初めて銀行の顧客が銀行でないとこに行ってしまうリスクが出てきたわけです。これは日本の銀行業界にとって過去にはなかったことです。 ──銀行はあるのが当たり前と思われていましたが、ある意味、銀行も普通の企業に変わっていくということでしょうか? 浪川氏 これまでは多少、サービスのレベルが低くてもお客さんがいなくなることはない、ということだったのだと思うんです。でも、初めてお客さんがいなくなるリスクに直面して、今、バタバタと慌てている、そういうことだと思います。
---------- 【浪川攻】なみかわ・おさむ。1955年、東京都生まれ。上智大学卒業。1987年、株式会社きんざいに入社、「週刊金融財政事情」編集部デスクを務める。同社退社後、月刊誌「Voice」編集・記者、東洋経済新報契約記者を経て、フリーの経済ジャーナリストとして活動。著書に「金融自壊―歴史は繰り返すのか」(東洋経済新報社)など。今年4月には講談社現代新書より「銀行員はどう生きるか」を出版。