究極の観光鉄道 夏の津軽を楽しむ
観光列車と言えば、最近JRや大手私鉄各社は、豪華車両でフルコースの料理を食べられるような、富裕層向けの列車を盛んに運行している。だが、そこまで富裕でないわれわれは、窓を大きく開いて地元の焼き魚で冷酒を、あるいは冬のストーブ列車でスルメイカをあぶりながら熱燗(あつかん)を楽しむ、これで十分だし、これに勝る楽しみはない。 そんなことを考えているうちに、列車は終点、津軽中里駅に着いた。途中の金木駅は近くに太宰治の生家「斜陽館」や津軽三味線会館があり乗降客も多いが、津軽中里まで乗る人は少ない。閑散とした駅前から15分ほど街中を歩くと、ポツンと小さなすし屋があり、そこでおすしとラーメンのセットを味わい、最近できたという日帰り温泉に立ち寄った後、駅に戻るとディーゼルカー「走れメロス号」がエンジン音を響かせながら待っていた。こちらは冷房も効き快適だが、旅情を楽しむという点では旧型客車の方がいい。 津軽の魅力が詰まったこの鉄道だが、経営は苦しいようだ。津軽五所川原駅には、廃車となった古い車両が並んでおり、実に痛々しい。観光客誘致のため、ストーブ列車や風鈴列車だけでなく、津軽三味線や民謡のライブを楽しめる「津軽三味線列車」、あるいは春から秋に地元の魚や地酒を味わう「呑み鉄列車」など、豊富な観光資源を活用したイベント列車はどうだろうか。津軽五所川原駅に戻る頃には日も暮れて、高さが7階建てにもなるという巨大な立佞武多が街を練り歩くお祭りを楽しんだ。勇壮な祭りも終わり、夜行バスに乗り東京へと帰ったが、また津軽を味わいたい、という気持ちが強くなった。
☆共同通信・古畑康雄