究極の観光鉄道 夏の津軽を楽しむ
【汐留鉄道倶楽部】この夏、青森を旅行した。東京との往復は夜行高速バスで、青森、弘前、五所川原の三大「ねぶた」(または「ねぷた」)を一気に見るという、やや強行軍だったが、その合間に、以前から興味があった津軽鉄道を体験できた。 【写真】金沢発最終のサンダーバードに乗ったら… 静かながらどことなく高揚感のある車内 「さようならではなくありがとう、と伝えさせていただきます」粋な車内アナウンスに涙腺がゆるんだ
津軽には旅人を引き付ける多くの観光資源がある。リンゴ、日本酒、津軽三味線、太宰治、ねぶた、弘前城の桜、竜飛崎、十三湖、そして鉄道もその一つだ。 青森、弘前と回り、五所川原に向かう五能線の新型ディーゼル車内で、さっそく「呑(の)み鉄」を開始。岩木山はあいにく曇って見えなかったが、ボックスシートで「津軽じょんから」という地酒の小瓶を飲み干し、五所川原に着く頃にはいい気分になった。夕方の「立佞武多(たちねぷた)」まで時間があるため、いったん街中に出て、スーパーでホッケの串焼きを買い、津軽鉄道の津軽五所川原駅へと向かった。 この津軽鉄道、全区間は約20キロで、開業は1930(昭和5)年。津軽五所川原の駅舎は築約70年というかなり年季の入ったものだ。切符は懐かしい硬券で、記念に持ち帰ることもできるし、駅の窓口ではお土産として使用済みの硬券のセットやさまざまな「津鉄」グッズを売っている。終点、津軽中里までの往復切符(1740円)を買いホームに向かうと、オレンジ色と灰色のツートンカラーの旧型客車が待っていた。冬にはあの「ストーブ列車」で使われる車両だ。2両編成で、小さなディーゼル機関車がけん引する。
この時期なのでもちろんストーブは使われていない。代わりに車内にはいくつもの風鈴がつるされ、夏らしさを味わってもらおうという趣向のようだが、走り出すと「キンコンキンコン」というATS(自動列車停止装置)のチャイムのように聞こえた。ちなみに津軽鉄道では「タブレット(通票)閉塞(へいそく)」という昔ながらの列車安全システムが使われている。 乗客は座席が半分埋まる程度で、4人掛けボックスシートを独り占めできた。やがて、機関車の警笛が短く鳴ると、列車はゆっくりと動き出した。 スピードを上げるにつれ、前後左右にかなり揺れるし、何よりも線路の継ぎ目を越える「ガチャン、ガチャン」という音がけたたましい。途中の小さな駅はホームに雑草が生え、車内に目をやれば、シートはつぎはぎが目立ち、車体にもさびの浮きが目立つ。普段乗り慣れている都会の快適な鉄道とは全く別の乗り物だ。 でも、大きく開いた窓から吹き込む風を受け、車窓に広がる津軽平野の田んぼを見ていると、そういうことはどうでもよくなる。地元の人には生活の足でも、旅人にとっては乗ること自体を楽しむ鉄道なのだ。すべてがレトロだが、こんなに楽しい鉄道があるだろうか。