完全試合続行中の日ハム杉浦5回交代の栗山采配に賛否
一方「次につながるので大満足」という賛同意見もあった。 2013年に国学院大からドラフト1位(外れでソフトバンクと競合)でヤクルトに入団した杉浦は、ルーキーイヤーのキャンプ中に右肘の靭帯を断裂すると、その後も右肩、右肘の故障を繰り返した。ローテーションを期待されながらヤクルトの4年間で通算6勝しかマークできず、そのポテンシャルを発揮できないまま2017年7月24日に屋宜照悟とのトレードで日ハムヘ移籍。そのシーズンも右肩故障で移籍後の1軍登板は1試合もなかった。昨年も2勝したが、故障不安が常につきまといフル稼働とはいかなかった。杉浦の故障歴と、コンディションを考え、次回以降、まだまだ長いシーズンの中での杉浦の先発としての役割を考慮すると、球数を制限しスパッと代えた栗山采配に説得力はある。 この点が、同じく完全試合続行中の降板で過去に大論争となった2007年の日本シリーズ第5戦における中日・山井の「消された完全試合」とは、まったく異なる事情だろう。 奇しくも、この時の相手も日ハムだったが、中日が3勝1敗で王手をかけて臨んだ第5戦で山井は8回までパーフェクト。だが、途中、指のマメが潰れたため、当時、投手起用について落合監督が全権を預けていた森チーフ兼投手コーチが交代を進言。落合監督がまさかの交代を審判に告げた。森コーチに「どうする?」と打診された山井が交代を申し出たという話もある。リードはわずか1点。そこには記録より53年ぶりのチームの日本一を優先する指揮官としての非情と、岩瀬という絶対的守護神がいたというチーム事情もあった。 だが、自らは現役時代に記録にこだわってきた落合監督の采配に対しての批判が相次ぎ12年も経過して検証番組が作られるほどの騒動となった。だが、この時は残り1イニングであり、天秤にかけたのは、日本一か、記録か、だけだった。負けてもまだ星一つ有利なのだから、1本ヒットを打たれるまで山井を続投させても正解だっただろうし、逆に短期決戦特有の流れが変わることを恐れて、この試合に「記録より勝負」を取った落合采配の理由もわからないでもない。 だが、今回の杉浦のケースは、まだ記録達成までに4イニングもありしかも肩のスタミナに不安が残る事情もあった。天秤にかけるものは記録か、勝利かだけでなく、この先122試合も残っているペナントレースへの影響と今後への計算も加わっていた。 その点から見ると山井のケースとは、まったく論点も異なるが、記録はプロ野球における魅力の一つであり、チケット代を払って見に来ているファンの期待を“裏切る”采配に議論が起きるのも当然だ。 今季の栗山采配には日ハム流のオープナーや大胆な守備シフトなどメジャー流のデータ野球に積極的にチャレンジしている姿勢が見える。イチローが引退会見で「日本の野球がアメリカの野球に追従する必要なんてまったくない」と語っていたが、ピッチング内容がどうであれ球数だけでオートマチックに代えるようなデータ至上主義のメジャー野球に傾倒しすぎるのもいかがなものか。 プロスポーツとして、そこに入りこむファン、選手などの様々な感情と、夢の部分を少しでも汲み取る配慮や情の部分があっても良かったのではないだろうか。 当の杉浦は、「今季初登板だったので不安はありましたが『自分の力を出すだけ』だと思って投げました。それが結果として良かったのかな、と思います。コントロールはアバウトで高めへ抜けたりしましたが、割り切って投げました」と広報コメントを残している。