「帰りたかったが、あきらめた」3年たっても帰還2割、土石流被災地・熱海の遠い復興 工事の遅れや行政との軋轢・・・それでも住民は「新しい伊豆山」のために奔走する
静岡県熱海市の会社員志村信彦さん(43)は2021年7月3日、大規模土石流の被害に遭い、伊豆山地区にあった自宅が流された。あれから3年。応急住宅暮らしを経て家を建て、7月から新生活を始めた場所は、かつての土地ではなく、熱海市の中心部に近い別の地区だ。 【写真】豪雨4年、熊本を復興のモデルに 知事「道半ば」、地域再生に重点
被災当時小学2年だった長男(10)は伊豆山に戻りたがった。一方で、小学校に通い始めた長女(7)には新しい友人関係ができていた。「同年代の子が伊豆山に戻ってくるのだろうか。少しでも人の多いところにいた方が良いのではないか」―。悩んだ末の結論。志村さんは「帰りたかったが、あきらめた」と肩を落とした。 被災現場への立ち入り制限は昨年9月に解除されたが、地区に戻った住民は約2割にとどまる。草が生い茂る住宅跡地や、窓が割れたまま放置されたアパート、いまだに人影の少ない被災地を取材すると、復旧工事の遅れや住民と行政との軋轢といった復帰を阻む事情が浮かんできた。(共同通信=平川裕己、柳沢希望) ▽工事完了予定は延長、また延長? 熱海市によると、28人が犠牲になった土石流で、昨年9月に警戒区域が解除された後に帰還したのは、避難対象だった132世帯227人のうち22世帯47人にとどまる(今年6月20日時点)。
また、同じような災害を防ぐ目的での河川拡幅や、緊急車両を通りやすくする道路整備のための用地買収の進み具合は、道路が75%、河川が60%ほどで、工事すら開始できていない場所も多い。 熱海市は2026年度末の工事完了を目指している。これは当初予定から2年先送りしたものだが、市は再延長を否定していない。こういった市のスタンスも、帰還を阻む要因のひとつとなっている。 ▽再分譲から費用補助へ、事前説明なく住民は反発 市と住民との不和も生じている。宅地復旧の補助制度を巡る混乱はその一例だ。 熱海市は最初、住宅再建を希望する人の土地を買収し、宅地造成後に再分譲する方針だった。それを昨年5月、被災者の負担費用の90%を補助する方法に変更。ほとんどの被災者に事前説明がなく、書面での通知だったため反発が広がった。被災者や市議会が苦言を呈し、補正予算案は取り下げられた。 市の復旧事業を巡っても、一部住民が「意見が反映されていない」と反発。警戒区域解除後に市が地区別説明会を行うなど多くの復興策が後手後手となり、被災者とのコミュニケーション不足が浮き彫りとなった。 ▽住民との対話には評価の声も