ラグビー2冠 パナソニックを支えた2人の外国人指導者
素晴らしい状況判断
今年度の日本ラグビー界は、パナソニックが完全制覇を果たした。 2014年3月9日、まもなく改修される東京は国立競技場。シーズンを締めくくる日本選手権の決勝で、東芝に30―21で勝った。2月には日本最高峰のトップリーグも制しており、国内の2つのタイトルをいずれも手にしたこととなる。 パナソニックは東芝の力感に気圧されて前半を10-14とリードされた。しかし、致命的なパニックには陥らなかった。 守っては東芝が命を賭けるブレイクダウン(接点)へ近寄りすぎず、横幅の広い守備網を敷き続ける。攻めてはこちらも幅広い陣形を敷き、声をかけ合い、空いた場所へさっさと球を運ぶ。その延長線上で、枢軸のスタンドオフのベリック・バーンズが鋭利なパスとキックを放った。後半の全得点に絡んだ。我慢を重ねて本来の姿を取り戻したフィフティーンの様子を、中嶋則文監督はこう見ていた。 「1人ひとりの状況判断がすばらしい。(相手ボールのブレイクダウンでは)仕掛ける(ボールを奪う)のか、次に備えるのか、フィールドの選手同士で確認し合っていた。いい状況判断をさせたのは、タックルがいいからこそ。相手が東芝さんだからどうしよう、ではなく、今シーズンの自分たちのラグビーにフォーカスを当てました」 2010年度以来タイトルから遠ざかっていたチームを、今季、スーパーラグビー(ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの南半球3カ国による最高峰リーグ)での実績が豊富な2人の新外国人コーチが支えていた。スキル&バックスコーチのフィリップ・ムーニーと、ストレングス&フィットネスコーチのアシュリー・ジョーンズだ。 チームを2冠に導いた「自分たちのラグビー(「状況判断」と「タックル」)」の裏には、首脳陣の確かなバージョンアップがあった。 「マイクロスキル」 「マイクロコミュニケーション」 オーストラリアのレッズで指揮を執ったことのあるムーニーコーチの、これが口癖だった。 ボールが欲しいタイミングと場所を仲間に伝える。球を捕ったらすぐ次の動作ができるよう、パスをもらう場所へ両方の手のひらを差し出す…。こうした連携や基本技術をどんな圧力のもとでも発動できるよう、個人面談では些細なシーンほど振り返った。結果、後に指揮官に「1人ひとりの判断が素晴らしい」と言わしめることとなる。 戦略構築にも貢献。練習前の全体ミーティングでは、守備面でのプレゼンテーションを担当した。 「ターンオーバー(接点でボールを奪うプレー)をするためのディフェンス、キックチェイス(味方の蹴った球を追うプレー)の時のディフェンス…チームがどう守るかを選手に説明しました」 スポットコーチとして加わった前オーストラリア代表ヘッドコーチのロビー・ディーンズとともに、堅守速攻というかねてからのチームカラーをより明確化したのだ。こうした取り組みでも、選手の「状況判断」を手助けしたと言えよう。 「チームの特徴にマッチしたプランを立て、練習をしていきます。試合後に個人面談をして、選手をそのイメージに近づけてゆくことも大事なプロセスでしょう。春にできなかったプレーが夏にできるようになり、夏にできなかったプレーが秋に…ということが、選手個々のなかにあります。それがチーム力になった。小さな積み重ねが大きな成果に繋がると、皆が実感できたと思います」