和田アキ子「トドみたいな…」発言 炎上の背景にあった“関西話法”への嫌悪感(井上トシユキ/ITジャーナリスト)
【2024年 芸能界ネット炎上事件簿】#5 パリ五輪で悲願の金メダルに輝いた北口榛花が、インターバル中に寝そべりながらカステラを食べる姿を「トドみたいなのが横たわってるみたいな。かわいいな」と例えて炎上した和田アキ子(74)。 「夏場の男性の匂い」「おじさんの詰め合わせ」「パーカーおじさん」…2024年は男性揶揄ネタ炎上元年だった! やり投げ決勝での姿を捉えた画像だったのだが、北口がインターバルでカステラを口にするのは、日本記録をマークした際に食べていたことからの験担ぎでもある。父がパティシエであるにもかかわらず、手軽なコンビニスイーツをおいしそうに食べるため、視聴者やファンにとって心温まる恒例行事としてお馴染みとなっていた。「動物に例えるのは失礼」「トドは褒め言葉ではない」といった批判に、楽園へ土足で踏み込んだ者を迎え撃つ痛烈ささえ感じられたのも当然だったのだ。 結果、和田は出演番組で「不適切だった」「リスペクトが足りなかった」と平謝り。これには、「本人から言われたわけでもないのに」「何も言えなくなる」などとおもんぱかるコメントも散見されたが、メディアからの退場を求める厳しい声すら現れ、長引く炎上となってしまった。 こうしたなか、関西人や関西弁を引き合いに出す(恐らく)関東人からのコメントが目を引いた。 「関西弁をまくし立てる」演者に苦言を呈するもの、関西ローカルで人気でも関東の番組には呼ばれない出演者がいることで、感覚や嗜好は一様ではないことを指摘するものなど、いつの間にか当たり前となった関西カルチャーの限界を指摘するものだ。言いたい放題、えげつない例えの妙といった関西独特の会話スタイルに実は食傷していたわけだ。 たしかに、和田の発言にしろ、トドではなく漫画のキャラクターになぞらえて「ゴマちゃんみたい」と、「えげつなさ」をマイルドにしておけば、ここまでは叩かれなかったのかもしれない。 ただ一方で、少しでも批判めいた言動に対して「失礼だ」「キャンセルだ」と全否定的に受け取る風潮が、このところ行き過ぎているように思える。「優しい世界」という、なれ合いやぬるま湯に浸るような人間関係を皮肉るネットスラングがある。現実世界が厳し過ぎて、優しいメッセージにこそ救われるというのはわかる。だが、マスコミや政治家、「上級国民」へネットの中だけで唾を吐き、安直な優しさに満足していい気になっていても現実は変わらない。ネットでいくら吠えたとて、権力者や上級国民などタフに生き残ってきた側のダメージは思ったほどでもないのだ。 キチンとした本を読まなくなって、言葉に対する耐性や理解力と同時に、生き抜く底力も減退しているのだとしたら由々しき事態だ。言葉は世界への取っ手である。文字主体のネットコミュニケーションだからこそ、言葉が持つ意味と力に向き合いたい。 (井上トシユキ/ITジャーナリスト)