“久保建英のいとこ”から“陸上界のニューヒロイン”に…16歳で800m日本チャンピオンの久保凛 日本選手権で見せた「ホントのすごさ」とは?
クレバーだったスパートの瞬間の「ある動き」
白眉はその田中のバックストレートでの仕掛けへの対応だろう。 久保は、田中の仕掛けに反応して先頭に出た後、残り150mほどでギアを切り替えた。その直前、スタジアムのオーロラビジョンにちらりと目をやっている。自身の後ろに控えた田中や、位置を上げて来ていた2021年王者の卜部蘭(積水化学)らの表情と位置取りを確認していたのだ。 そこまで冷静に確認したうえで、「ここならいける」というタイミングで一気にスパートし、突き放して見せた。 「この舞台では優勝を狙っているので」 予選後の囲み取材では、確かにそう語っていた。だからこそ、勝負に徹して自身の走りを変えることも辞さなかった。普段とは違うレースパターンで、しかも悪天候の中で、なお勝ち切ったところには記録以上の価値がある。 「今年中に高校記録(2分2秒57)を出して、来年の試合には1分台を目指して……と思っています」 今後は連覇を目指すインターハイが大きな目標となるだろうが、その後の秋冬の駅伝シーズンにどう取り組むのかはなかなかに興味深い。 800mという種目に本格的に取り組むのであれば、短距離的なトレーニングも必須になってくる。55秒台だという400mのベスト記録も更新の必要があるだろう。その上で駅伝も視野に距離を伸ばして幅を広げていくのか、あえて種目を絞って新たな試みを試すのか。16歳の未来には、無限の可能性があるとも言える。 ただ、本人はあくまでも800mという種目にこだわりをみせていた。 「自分は800mという種目が好きなので、この種目で2分の壁を切れるランナーになりたいです。世界で入賞することは高い目標でもありますけど、そういうランナーになりたいです」
「久保建英のいとこ」から、陸上界の第一人者へ
それにしても、2年前の全中で優勝した時には、メディアでも「サッカー・久保建英(レアル・ソシエダ)のいとこ」という取り上げ方をされることが少なくなかった。 ところが、そこからわずか2年で日本の頂点にまで輝いた。 少なくとも陸上界では、もう久保のことを「久保建英のいとこ」と見る向きはほとんどない。むしろ、日本人初の800m「2分切り」や、世界との壁が厚いと言われ続けてきた同種目で、世界大会の参加標準記録突破を目指す第一人者になりつつある。 囲み取材等では、10代とは思えぬ落ち着きと貫禄を見せる。来年は東京で世界選手権があり、4年後にはロス五輪も控える。新女王は、日本中距離界の未踏の荒野をいかにして歩んでいくのだろうか。
(「オリンピックPRESS」山崎ダイ = 文)
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