“壊れなくなった”エンジンの影に潤滑技術の進歩 意外と重要なオイルの仕事
「エンジンが焼きついちゃったよ」なんて話はすっかり聞かなくなった。だからと言って、潤滑油を入れなくていいエンジンはいまだにない。エンジンが壊れなくなった裏には潤滑技術と設計の進歩がある。今回はそんな話をしてみたい。
エンジンは摩擦のカタマリ
例えばピストンとシリンダー、あるいはコンロッドとクランク、さらにはクランクと軸受け、金属部品が回ったりこすれたりするところは全て摩擦が発生している。エンジンは摩擦だらけの機械だ。この摩擦を放っておくと部品が摩耗して壊れてしまう。 荷重が低いところならローラーベアリング(ころ)などを使って摩擦の相対速度を限りなく落とし、大幅に摩耗を低減することは可能だ。だが荷重の高いところ、例えば前述のクランクと軸受などはローラーベアリングでは辛い。もっと荷重に強い支持方法がないとエンジンの耐久性が足りなくなる。 荷重のかかるところで、ローラーベアリングが役立たずな理由は思いのほか簡単で、例えば直径100ミリの軸受けに直径2ミリのベアリングを使うとその接点は線に近い。例えるならピンヒールのかかとで足を踏まれる様な状態だ。金属面への攻撃性が高いのだ。 面積当たりの圧力を考えるなら、かかとの面積は大きいほど踏まれても痛くない。これが100ミリの軸受に99.99ミリの軸を組み付けると自分の足全体をほぼ同じサイズで踏まれることになるから、あまり痛い思いをしないで済むわけだ(足首の分はこの際考えない)。つまり軸受の寸法はギリギリにした方が、荷重を限られた点や線では無く、面全体で受けることができる。そのために面で支えるプレーンベアリングを用いるのが一般的だ。この面で支える話は後でもう一度出てくるので是非覚えておいて欲しい。
“1億倍”にした潤滑の世界
エンジンの部品を手に取って見たことがあるだろうか? 極めて高精度に平滑が保たれている様に見える。しかしその表面は、ミクロのオーダーで見ると実は相当にデコボコで山と谷に覆われているのだ。 その山の高さは1000分の1ミリから10万分の1ミリ。そう言われてもピンと来ないだろうから、キリ良く1億倍にしてみると1メートルから100メートル。1センチの至近距離で見た金属の表面は、1000キロ上空の外気圏から眺めた東京の街みたいに、一見平らだが実は1メートルの塀もあれば100メートルのビルもある風景なのだ。 想像して欲しいのだが、摩擦が起きる時には、二つの地球が回転しながら塀だとかビルだとかをぶつけ合いながら接触するのである。ダイナミックにも程があるが、摩擦による摩耗とはそういう状況で起きるのだ。