ロン毛の秘密~コールドスプリングハーバー(後編)【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
■コールドスプリングハーバーで学んだこと 最後に、この研究集会で気づいたこと、学んだことがある。 まず、欧米からの参加者の見た目は、きわめて自由である。髪や肌の色はもちろん、着ている服装もファッションもそれぞれにバラバラで、まさに「ダイバーシティ」である。くったくたなTシャツを着てるやつもいれば、バッチリスーツでキメてるやつもいるし、ヒッピーのように腰まで髪が伸びているやつもいれば、髪の毛とヒゲが逆になったようなやつもいる。 それに対し、日本人を含めた東洋人男性のほぼ全員が、黒髪で短髪なのである。そしてその半数以上がメガネをかけている。 そのような中にいると、東洋人男性の個体識別はきわめて困難なものになる。私ですら区別がつかないケースも何度かあったのだから、あちらの方々からしたら、おそらくほとんど識別できていないのではないだろうか。 ――そのような環境の中で、どうすれば認知してもらえるだろうか? 毎年熱心に参加していても、あちらの方々の印象に残らなければ覚えてもらえない。良い研究をして良い発表をしても、私という「個体」を識別してもらえなければ、その後の交流にはつながらない。しかし、英語で流暢に自己アピールできるほどの語学力はない。 察しのいい読者はもうお気づきであろう。――そう、この問題を解消するために、大学院生だった私は、髪を伸ばすことにしたのである。上述のように、ロン毛の東洋人男性はほとんどいなかった。黒髪ロン毛にすれば、個体識別がきわめて容易になる。そうすることで私は、あちらの方々からも広く認知されるようになり、毎年この集会に参加するたびに、「ケイ、ひさしぶり!」と声をかけてもらえるようになったのである。
もちろん正攻法は、「きちんと英会話を覚えて、きちんと英語で自己アピール」なのだろうが、残念ながら英語はそんなにすぐにはうまくならない。性格の問題もある。 そうであれば、「プランB」である。「海外に留学をすれば外国人の友達ができる」ということを言う人がたまにいるが、外国人の友達を作るだけなら別に留学しなくてもできる。上述の通り、私の例がそうだ。 そして、「研究者として成功したいなら、海外に留学するべきである」というのも同じである。留学すれば研究者としてかならず成功できるというわけではないし、別に海外に留学しなくても、研究者として成功できるんじゃないか、と私は思っている。私のロン毛がそうであるように、大切なのは「プランB」の発想である。 文・写真/佐藤 佳