ロン毛の秘密~コールドスプリングハーバー(後編)【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
■コールドスプリングハーバーで得られたこと それといくつか、この研究集会に毎年参加することによって得られたことがある。 まずはなにより、欧米の研究レベルとの差を痛いほど体感できたことにある。口頭発表は毎年だいたい100題はあったと思うが、日本から口頭発表に選ばれるのはたった数題であった。それぐらい、世界、つまり、欧米のトップレベルと日本の研究レベルに差があった、ということである。 ――どうすればこの差を埋められるのか? 毎年この会に体当たりで参加し、その差を痛感するたびに、それを自問自答していた。あるいは、歳の近い友人たちと、それについて熱い議論をしたりしていた。 実はこの連載コラムの5話で使われている、私がポスターを眺めている写真と、芝生の上に4人並んでいる写真は、どちらもこの研究集会で撮られたものである。特に、G2P-Japanのコアメンバーでもある熊本大学のIとは、博士研究員の頃からこの研究集会に一緒に参加していて、酔っ払ってはよくそんな議論していた。また、当時はさほど親しくはなかったので直接議論したことはなかったが、G2P-Japanのコアメンバーである宮崎大学のSも、この研究集会によく顔を出していた。 つまり、私、熊本大学のI、宮崎大学のSは、この研究集会に足繁く通うことで、そこで芽生えた「欧米と日本の研究レベルの壁」という歯痒い気持ちを、新型コロナの研究を始める前から抱いていたということになる。コールドスプリングハーバーの研究集会を通してこのマインドを知らぬ間に共有していたからこそ、6話で紹介したように、G2P-Japanとして一致団結し、「世界とたたかう」というマインドを暗黙のうちに共有することができたと言っても過言ではない。 そしてもうひとつ、この研究集会で得られたのは、かけがえのない海外の友人たちである。この連載コラムにも登場したことがあるラヴィ(Ravindra Gupta。イギリス・ケンブリッジ大学教授。15話、17話に登場)やダニエル(Daniel Sauter。ドイツ・テュービンゲン大学教授。19話、20話に登場)などがそうだ。海外留学経験がない私にとって、コールドスプリングハーバーで毎年開催されていたこの研究集会こそが、海外の研究者たちとつながる貴重な機会のひとつにもなっていたのである。