岸田戯曲賞受賞のヨーロッパ企画傑作SF人情喜劇、満を持して再演
京都を拠点とするコメディ劇団、ヨーロッパ企画。1998年の結成以来、年に1度の劇団本公演で積極的な国内ツアーを展開。2005年に『サマータイムマシン・ブルース』が映画化されたのを機に、いまや舞台にとどまらず、ジャンルを超えた活躍をしている彼らの近年の代表作ともいえるのが『来てけつかるべき新世界』だ。2016年に初演され、第61回岸田國士戯曲賞を受賞。今年9月の京都公演を皮切りに再演が決定した本作の魅力と見どころを、作・演出の上田誠と、出演の石田剛太が語った。 【画像】その他の写真 物語の舞台は、大阪・新世界。串カツ屋の看板娘・マナツは、母親の死をきっかけに酒浸りになり2階に閉じこもったままの父親に代わり、ひとりで店を切り盛りしている。近くには、クリーニング屋、散髪屋、ゲームセンターなどがあり、遠くに通天閣が見える界隈。串カツ屋に集まるおっさんたちの日常に、テクノロジーという文字通りの“新世界”がやってくる! 「“おっさんたちmeetsテクノロジー”的なストーリーが、ドローン、ロボット、AI、メタバース、シンギュラリティなどの5章構成で展開していく舞台」と語るのは、ヨーロッパ企画の作・演出を務める上田誠。「タイトルの“来てけつかる”は“来やがる”みたいなニュアンス。関西でもあまりこんな使い方しませんが、いずれ来るべくしてやってくる新世界に対して、ちょっと唾を吐くような感覚を込めました。タイトルを先に付けてからストーリーを作っていったのですが、“大阪の新世界”と“テクノロジーの新世界”というテーマが予想以上にうまくかみ合い、壮大かつ馬鹿馬鹿しく、おかしみも人情味もある作品に成長していった気がしています。結果的に、お客さまの反応も良く、賞まで頂く事ができました」。それまでは企画性に特化したコメディが多かった彼らが、物語や世界観のテクスチャーを描くことにチャレンジした最初の作品でもあり、本当に転機的作品になったと振り返った。 再演にあたって、歌姫役に町田マリー、恋する散髪屋役に岡田義徳、マナツの父親役に板尾創路など、一部新キャストが登場。「町田マリーさんは、めっちゃ面白い人。外部の公演ではご一緒したことがありますが、ヨーロッパ企画では初めて。僕らと同世代で、東京の劇団・毛皮族の出身です。岡田義徳さんとは、映像の仕事で何度もご一緒していましたが、劇団にも興味を持ってくれて。恋する散髪屋さんの役は、コミカルでありつつ、エモーショナルでグッとくる役なので、岡田さんにぴったりだと感じています。芸人で俳優でもある板尾創路さんの出演は、大阪喜劇としての大きな説得力。実は、初演で福田転球さんが演じていたクリーニング屋のおっさんをお願いしようとしていたのですが、逆提案を頂き、マナツちゃんのお父さん役に興味があると演じてもらうことになりました」(上田)。 「『来てけつかるべき新世界』は間違いなくヨーロッパ企画の代表作!…というか、代表作にしたいと思っている作品です」と語るのは初演同様、将棋好きのおっさん役を演じる石田剛太。初演時は、新世界のおっさんたちをリサーチして役づくりに挑んだそう。「2016年は藤井聡太さんが最年少プロ棋士になった年で、当時はまだAIが出始めたころ。将棋界ではどういう向き合い方するのかみたいなことを言われていました。今ではすっかり共生し、AIの評価値も将棋楽しみ方のひとつになっていますよね。藤井さんはAIによって強くなった棋士ですし、将棋界は、AIを利用してファンを新たに獲得しているのも面白い。藤井さんが『将棋を人間がさすことに意味がある』と話されていたのですが、それを聞いて、自分が演じたおっさんと同じだなと嬉しくなりました」と笑顔を見せた。 “万年最下位の阪神”が優勝し連覇を期待されていたり、近未来のテクノロジーがずいぶん身近になっていたり、様々な変化はあるものの“大阪の新世界”が象徴しているイメージは現在も変わらない。「100年前にできた歓楽街で昔の風情は残っていているけど、そこに近代的な建物や最先端のものもあったりする。ある種、非日常的なサンクチュアリのような場所だからこそ、テクノロジーとの対比が引き立つ。劇中の近未来もじわじわと現実に近づいてきているので、テクノロジー的には今の時代に合わせてアップデートする予定です」(上田)。 初演当時30代後半だったヨーロッパ企画のメンバーも、今は40代半ば。「『サマータイムマシン・ブルース』はもうやれないけど、この作品ならどんどんできるという感じ(笑)」と上田が語り、「今年45歳になり、よりおっさんに近づいたというか、おっさんです。だから演技はより深めながら、気持ちは若々しく、体力的にはおっさんにならないように気を付けたいと思います」と石田も意気込む。ふたりが揃って胸を張るヨーロッパ企画の傑作SF人情喜劇「来てけつかるべき新世界」の再演。初演を観た方も未見の方も、捧腹絶倒の“新世界”対決を楽しんでみては。 ヨーロッパ企画第43回公演 『来てけつかるべき新世界』 <京都公演> 公演日程:9月5日(木)~8日(日) 会場:京都府立文化芸術会館 <東京公演> 公演日程:9月19日(木)~10月6日(日) 会場:本多劇場 <大阪公演> 公演日程:10月12日(土)~13日(日) 会場:SkyシアターMBS <福岡公演> 公演日程:10月25日(金)・26日(土) 会場:キャナルシティ劇場 ※その他地区でも公演あり。