レスリング世界選手権で噛み付き、頭突きのプロレス技反則の暴挙
実は高谷は、過去に何度もラフプレーの被害を受けている。そして、こういった暴力行為をおこなう選手は、乱暴なことでよく知られている選手ばかりだ。 「ラフプレーをよくされるんですよね。世界選手権で銀メダルをとったときも、倒した相手から腹いせにアップ場で熱湯をかけられて、銀メダルよりそっちで話題になったし。口に指を突っ込まれて、中がえぐれたこともあります」 高谷は2014年の世界選手権でウォーミングアップエリアで熱湯をかけられる被害にあっている。相手は、2008年北京五輪銀のガイダロフ(ベラルーシ)。マットを降りてから粗暴なことで知られ、2004年アテネ五輪では同階級の金メダリスト相手に場外乱闘を起こし、失格になった。高谷に熱湯をかけた2014年世界選手権も、もちろん、失格になっている。 噛みつかれた経験があるのは、高谷だけではない。北京五輪銀の松永共広は、準決勝でクドゥホフ(ロシア)を左脇に抱えて押さえ込んだとき、左の頬骨に噛みつかれた。このとき、クドゥホフは噛みついている場所が審判から見えないことを分かった上で反則をおこなっている。 噛みつくことで有名な女子選手もいる。2004年アテネ五輪金、2008年北京五輪銅のメルレニ(ウクライナ)は、世界選手権の決勝で、フォールされそうになったとき、相手の肩に噛みついていた。やはり審判から見えない角度であることを承知で噛みついているが、あまりにくっきりした噛み跡がついていたため、反則負けの判定でもよかったのではないかとささやかれたほどだ。 噛みつく選手に共通しているのは、いずれもフォールを逃れたくて噛みついていることだ。そして、噛みついたかいなく、敗れていることも共通している。 もともと、レスリングは紳士的に戦うことを試合前に宣言する習慣がある。最近ではルールから省かれているが、かつては白いハンカチの所持をレフェリーに示してから、試合にのぞむよう義務づけられていた。この行為は、正々堂々と紳士的に戦う宣言であると考えられていたのだ。現在は省略されているが、この精神性だけは継続してほしいものである。 (文責・横森綾/フリーライター)