“沼男”横浜流星が放つ危険な香り ミステリアスな横顔に惹かれてしまう『わかっていても the shapes of love』1~3話
横浜流星主演のABEMAオリジナル連続ドラマ『わかっていても the shapes of love』(ABEMA)が、ついに配信スタートとなった。12月9日に1~3話、その後1週間毎に4・5話、6・7話、最終話と全8話で構成される。1話につき約30分という日常のスキマ時間にも楽しめる長さ、そして1話ごとに「◯◯とわかっていても」というサブタイトルとともに周囲の愛すべきキャラクターたちにもスポットライトが当たる。そんなスマートな作りも、この作品の特徴だ。そこで、今回は早速1~3話までをダイジェストで振り返りたい。 【写真】横山流星演じる、若き天才芸術家の香坂漣 ・#1 望んではいけないとわかっていても 舞台は、鎌倉にある美術大学。そこで彫刻学科の助手として働く浜崎美羽(南沙良)は、過去の恋愛にトラウマを抱えていた。2年前、恋人だったアーティストが美羽をモデルにした作品を発表。それは別れたくないと泣き叫ぶ姿だった。タイトルも「美しい羽」と見る人が見れば、すぐに自分がモデルだとわかってしまうもの。恋人にだけ見せる自分というものがある。その特別な顔をなんの相談もなく晒された美羽は深く傷ついたと訴えるのだが、逆に「キミはずっと同じところにいようとするよね。くすぶっている自分を作品にして、正当化するのいい加減やめたら?」と責められる結果に。 恋にも、そして作風にも自信をなくした美羽。それ以来なにかを望むことそのものに臆病になってしまった。「恋愛って結局、最後は傷ついて終わるじゃないですか。そんなものに心すり減らすくらいなら作品だけに集中したいなって思っていたんですけど……」と言っていた矢先、ある運命的な出会いを果たす。それが、大学に特別臨時講師としてやってきた若き天才芸術家の香坂漣(横山流星)だった。 しかし、「はじめまして」と挨拶した2人が、本当に初対面を果たしたのは助手と講師としてではなかった。漣が構内にある学長の銅像にペンキをぶちまける荒々しい姿を目撃してしまった美羽。すると、近づいてきた漣は慣れた様子で美羽の顔に手を伸ばし、飛び散ったペンキを指で拭う。常識外れの行動に、色っぽい手つき。状況的にはかなり危険な香りのする男だが、それ故に目が離せない。 人前では適度な距離を保ちながら人気講師としてその役割をそつなくこなし、2人きりのときには余裕たっぷりな表情で美羽に絡んでくる。それだけなら、まだいなせたかもしれない。しかし、美羽の心を傷つけたあの作品を、なんの躊躇もなく破壊する漣。それは、美羽にとって自分を解き放ってくれることでもあった。 誰かを愛することも、自分を信じて作品を作ることも、最終的に傷つく結果なら最初から望まない。そんなふうに思っている人はきっと少なくないはず。でも、その痛みをさりげなく理解して、一緒にぶち壊して次に進もうといざなってくれたら。それが、あの眼差しの持ち主だったら……どんなに傷つくとわかっていても、その光に飛び込まずにはいられない。 ・#2 特別じゃないとわかっていても 恵まれた才能と、振り向かずにはいられない魅惑的なビジュアルで漣の周りには常に人が集まっていた。自分はそのなかの1人であって、決して特別なんかじゃない。そう言い聞かせて自分の心の高鳴りを抑えようとしていた美羽。一方で、同じように自分を「特別な存在なんかじゃない」と、悩む人物がいた。院生2年の長壁颯(浅野竣哉)だ。 ひたすらストイックに木彫の仏像を掘り続けてきた颯。しかし、どんなに努力しても漣のような天才的な才能がないという虚しさは消えない。その劣等感は恋愛をするときにも通じており、密かに想いを寄せている椎名光莉(福地桃子)に気持ちを伝えられずにいた。 光莉も漣と同じくいつも人に囲まれているタイプ。特定の恋人は作らずに、その場限りの関係を楽しみながら心を満たそうとしていた。そんな彼女だからこそ、漣も同類だと気づくのだ。本当は、どこかで美羽や颯のようにまっすぐな性格を眩しく思っていることを。 「どうしたら偉大な芸術家になれるのか聞いていいですか?」と憧れる漣にズバッと聞くことができる颯。彼は彫刻についても一生飽きることはないと断言した。なぜなら彼にとって作品づくりとは自分と向き合う作業だから。そのスタイルは、「くすぶっている自分を作品にして、正当化するのいい加減やめたら?」と侮辱された美羽のそれと近いものがある。 徹底的に自分を掘り下げていく。その作業は、自分の弱さや苦しい部分をも見つめていかなければならない。決して簡単なことではないし、尽きることはない。「永遠なんてあるのかね」と遠い目をする漣と、「永遠を探してきます」と作業場に戻る美羽の対比が際立っていたのも、彼らの持っているものの違いを際立たせる。もしかしたら、漣や光莉にとっても、美羽や颯は「傷つくことになるかも」と安易に距離を縮めることを恐れる相手なのかもしれない。自分自身が知りたくないと逃げてきた部分にまでたどり着いてきそうな人だから。 ・#3 踏み出してはいけないとわかっていても 「香坂先生はなんのために作っているんですか?」とまっすぐに聞けてしまう美羽は、やはり自分に素直に生きてきたのだろう。もともと自分の感情を出すことに対して怖がるようなことはなかったのだ。出した結果、傷ついた経験が少しだけ彼女を縛っていただけ。真面目だからこそ相手の言葉をすべて受け止めてしまっていたが、きっといろいろなタイプの人と接する機会が増えていくにつれて、誰の言葉をどこまで受け止めていくべきかを判断する力が身につくはず。そして、きっともっと柔軟に生きていけるはずだ。 その証拠に、漣と過ごす時間が増えるたびに、自分の気持ちを伝える勇気を持っていく。「蝶が見たい」とは、漣の部屋に行きたいという意味でもあるし、漣の心の中に飛び込みたいという意思表明にも聞こえた。だが、漣は自分の内面を知られることを極端に避けているように見える。だから、何を質問してもいつもはぐらかすようなことばかり。ベッドに腰掛け、美羽と結ばれたいという気持ちも、決して言葉にはしない。本当に伝わってほしいことは目を見つめて訴えるのだ。 きっとこういうところが漣を「沼男」と言われる理由なのだろう。漣は何も言わない。だから、美羽は漣の気持ちを探り、無意識に彼の望む行動をしたいと願い、そして何か発展してもすべて自分の意志で動いたものだと感じる。それをズルい人だと感じて去っていくならば、漣は追わないのだろう。そんな予感がするから、漣の部屋に出入りしている他に女性がいるのではと思われるイヤリングを見つけても、美羽は何も聞くことができない。 漣と曖昧な関係になった美羽が、「これ以上踏み込んでいい相手なのかわからなくて。普通に付き合うとか、あの人にそういう概念があるのか」と川瀬咲(朝倉あき)に相談したのも、一種の無邪気さ。咲は美羽と同じように真面目なタイプだ。それゆえに、自分の芸術家としての才能を信じきれず、堅実に就職した人でもある。そんな冒険できない自分を解放してくれる吉野愛実(夏子)の存在が、徐々に特別に感じていたとこりだった。もちろん、そんな咲の葛藤に美羽は気づかない。 「普通って何?」「普通の恋なんてさ、ないんじゃないかな」という咲はどこか自分自身に言い聞かせているようにも見えた。そして「美羽ってさ、当たり前のように普通って言葉使うよね。普通がすっごく難しい人もいるんだよ」と語りかけた咲の言葉に、漣の寂しげな瞳を思い出す。特別と言われる人は、むしろ普通でいられないから特別なのかもしれない。「普通の恋」なんて言葉に収まらないのが、リアルな恋。ならば、より一層踏み出さなければ始まらない。そう気づいた美羽、颯、そして咲が、それぞれ相手の心に一歩踏み込もうとする。 しかし美羽の前には、漣の家から出てくる今井千輝(鳴海唯)の姿が。また、颯と酔った勢いで結ばれた夜のことをなかったことにしようとおどける光莉。そして、ここぞというときに無難な道を選んでしまう咲。漣と千輝の関係とは一体なんなのか。#1で「漣の1年、私に頂戴」と問いかけていたあの声の正体だろうか? 颯の真剣な告白に光莉はどんな答えを出すのか。そして、リスクのない選択をしているがゆえに苦しい時間を過ごしている咲が、自分に素直になることができるのか。それぞれに動き出した恋が、彼らの心の奥底にある本音を掘り起こしていく。
佐藤結衣