高速道路構想、市電改革、市役所建て替え…就任10年、熊本市長の展望
12月3日に就任から10年を迎えた熊本市の大西一史市長が毎日新聞のインタビューに応じた。熊本県と市が実現を目指す都市高速道路3路線について、2025年に概略のルート案を決定する考えを明かした。運行トラブルが続く熊本市電の改革や市役所本庁舎の建て替えに改めて意欲を語った。【中村敦茂】 ――就任10年を振り返り、成果と課題を一つずつ挙げるとすれば。 ◆とにかく熊本地震、新型コロナウイルス禍との闘いの10年だった。災害や感染症への対応で認識させられたのは、いざ何かがあった時に支え合える地域コミュニティーの大切さだ。各区役所にまちづくりセンターを設置して担当職員を置き、自主自立のまちづくりを進めてきた。地域コミュニティーはかなり強くなったと思う。 課題と言えば、深刻な交通渋滞の解消だろう。公共交通の充実、道路ネットワークのベストバランスを目指して取り組んでいきたい。 ――10年間を自己採点すると。 ◆70点ぐらいかなと。市長選のマニフェストの項目も含めてまあまあ実現できた。一方、渋滞を含めてまだまだ課題は残っている。 ――その渋滞対策の一つとして、市中心部と九州自動車道までを約10分、熊本空港までを約20分で結ぶ都市高速道路3路線(北連絡道路、南連絡道路、熊本空港連絡道路)を検討している。進捗状況は。 ◆福岡市や北九州市のような高架・有料の都市高速道路を目指している。新たな用地買収は難しいが、既存の道路を2階や3階建てにして活用すれば早く整備ができるからだ。 昨年11月に県・市合同の有識者委員会を開き、住民参加型の計画検討も始めている。今後、課題を整理をしながら、25年には3路線の概略ルート案や道路構造を示したい。これでかなり具体的な姿を見せられるだろう。26年には都市計画決定手続きに着手できればいい。 半導体大手、台湾積体電路製造(TSMC)の進出もあり、現状の道路ネットワークは不十分だ。この点は国にも強く訴えており、国・県・市で協力して進めていきたい。 ――公共交通の柱となる熊本市電では24年、信号無視やドア開け走行など14件のトラブルが続発した。 ◆利用者の皆さんに本当に申し訳なく、おわびしたい。赤字経営が続いたツケが、非正規雇用による運転士の身分の不安定さや、(人手不足による)休憩の取りにくさなどにつながっていた。 大事なのはやはり、人の部分。安全を司る運転士や整備部門の処遇改善をしっかりやっていく。25年1月には安全対策チームも新設する。私自身も市政のトップとして強くコミットしていきたい。 ――市電では、Suica(スイカ)などの全国交通系ICカードを廃止するか、存続させるかの検討も続いている。 ◆交通系ICは1枚でさまざまな交通機関に乗車できるメリットが大きい一方、機器更新の費用が高く、地方の交通期間が維持していくのに厳しい面がある。現在はクレジットカードのタッチ決済など、より安価な決済手段も生まれている。どういう決済のあり方がいいのか、市民アンケートも実施したうえで、適切に判断したい。 ――市役所本庁舎の建て替えには、いまだに市民の反対の声が根強い。どう理解を得ていくか。 ◆現庁舎の耐震性能不足、浸水に対する脆弱性、老朽化、狭隘(きょうあい)化という根本的な課題を解決するには建て替えが必要であるということを、十分にご理解いただけていない。耐震性能については十分検証もしてきたが、細かく専門的な議論になり、分かりにくさがあるのだと思う。 最も大事なのは最悪の事態に備えることだ。庁舎にリスクがあり、災害対応ができなくなったり、庁舎内や周辺の人の安全確保が困難になったりする可能性があることは極めて重大だ。今後、シンポジウムや市民説明会などで情報を伝え、新庁舎がまちちづくりの中心となることも説明して理解を広げたい。 ◇おおにし・かずふみ 1967年熊本市生まれ。大学卒業後、商社勤めなどを経て、97年から熊本県議を5期務めた。2014年11月の市長選で初当選し、12月3日に就任。1期目に熊本地震、2期目に新型コロナウイルス禍への対応にあたった。