お湯で洗い流せて環境負荷を低減 最小で50ミクロン幅の銅めっき可能、マスキングに寒天使う新技術
長野県内で生産が盛んな寒天を使い、めっき加工時の環境負荷を低減する技術を、長野県工業技術総合センター精密・電子・航空技術部門(岡谷市)が開発した。常温の水には溶けず、お湯で洗い流せる寒天の性質に着目。一般的なめっき加工で使うマスキング(覆い)用の特殊インキやインキを取り除く薬液を、寒天と水に置き換える。実用化を視野に、県外のめっき加工企業からの依頼で実際の工程に近い条件で試作を進めている。 【写真】「NAGANO」と銅めっきを施した樹脂
各種の基板や部品にめっきを施す際、めっきしない部分はマスキングをする必要がある。マスキングは、光を当てることで硬化するインキで皮膜を形成したり、テープを用いたりする手法がある。インキは薬液で洗い流し、ともに産廃処理を伴うことから、同部門は環境負荷低減が見込める代替技術を模索した。
寒天が海藻のテングサを材料としており、環境への影響が低いことや入手のしやすさに着目。作業工程で別の水溶液に溶け出さないこともありマスキングの素材に選んだ。
めっきを施す基板などの対象物を、溶かした寒天に入れて皮膜を形成。めっきを施したい部分はレーザーで寒天を除去する。その後の工程で残った寒天は、90度ほどのお湯に溶かして取り除く。最少で50ミクロン(0・05ミリ)幅の銅めっきの加工に成功した。
研究の初期段階では、レーザー照射によって照射部周辺のひび割れも発生したというが、寒天の濃度やレーザーの出力などを調整して発生を抑えた。実験に用いる粉末寒天の選定には伊那食品工業(伊那市)が協力。比較的低温でも溶けやすい寒天を提供したという。
県工業技術総合センター化学部の飯島和貴子技師は「環境や人への負担を減らすことがテーマの技術。品質の安定化だけでなく、資源が有限な寒天以外の素材も探していきたい」とする。同部の成田博部長は「大型の装置などを用いずにミクロン単位のめっきができる。環境に優しいシーズ(種)として、さまざまな場面で発信していきたい」としている。