AI で農業を変革する、農業のスマート化がもたらす効果と未来
獣害、害虫被害対策にはAI×ドローンで
害獣や害虫をいち早く検知して対応するためのテクノロジーにもAIが利用されている。物流ドローンを開発するSkyDrive(愛知・豊田市)は、地元猟友会やAIシステムの開発企業などと連携し、千葉県で農業被害を防ぐための害獣対策を実用化している。 この取り組みは、小型ドローンAIを用いてシカやイノシシなどの害獣を検知し、これらの動物の生息域や侵入ルートを調査しマッピング。そのマッピングポイントに害獣捕獲用のくくり罠や監視用カメラなどの物資をドローンで運搬するという仕組みである。将来的には、AIシステムと大型ドローンの連携による自動飛行の実現や、大型の物流ドローンによる害獣の搬送なども手掛ける予定となっている。 一方、オランダでは、手のひらサイズの農業用ドローンが、蛾を発見すると自動で追いかけ駆除する仕組みが普及している。農業用ドローンには、室内で自律飛行するためのセンサー機能とAIが搭載されており、益虫と害虫を見分け、害虫だけを駆除することができため、農薬の使用を減らすことができる。
気候変動対策や農業の脱炭素の流れにも対応するスマート農業
大手国内企業も、AIを使ったスマート農業の提案に力を入れ始めている。 農機の国内最大手のクボタは、農業ロボットやICT、地理情報システム(GIS)などの最先端テクノロジーを活用した「KSAS(KUBOTA Smart Agri System)」の提供を行っている。 同システムは、圃場の情報から作業内容、農機の稼働情報まですべての営農情報を集約し、あらゆるデータを可視化して、改善点を明らかにするもの。また、AIを搭載した自動運転トラクターが、生育状況や天候などのさまざまなデータを活用し、耕作から種まき、収穫までの農作業を自動で行う試みも行われている。このKSAS は2023年9月現在、25,000軒を超える農家が活用している。 カゴメとNECは、AIを使ったトマト栽培の支援サービス「CropScope」をイタリアで2024年4月から開始する。人工衛星や畑に設置されたセンサーから得たデータをもとに、AIが水や肥料を与える最適な量やタイミングを判断し、自動で投入する。中心になるのは、最適な土壌水分量を保ちながら水の消費量を削減する栽培手法である「少量多頻度灌漑」。同国で実施した実証実験では、通常より19%少ない水量で、トマトの収量を23%増加させることに成功した。 現在、世界各地で気候変動による干ばつが頻発しており、欧州でも干ばつにより加工用トマトの生産量は減少している。こうした背景もあり、AIを活用した自動制御へのニーズは高まっている。カゴメとNECは、このサービスを世界の加工用トマトの栽培地域でサービスを提供することを目指している。 気候変動はこれまで経験したことのない高温や干ばつ、ハリケーンなどを引き起こし、農業の根幹も揺るがす問題となっている。AIを活用することで、より対策を早く講じ、自動制御によって、ダメージを最小限に抑えることが期待される。 また、農林業は世界の温室効果ガス排出量の約4分の1を占めており、施設園芸でのエネルギー利用、水田や農地土壌、肥料などからメタンやN2Oの温室効果ガスが排出されている。日本は、2050年までに農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現を目指しており、農業の脱炭素の側面でも、AI活用による省エネ、肥料や農薬の使用量削減が重要とされている。 農家にとって、AIを活用したシステムの導入はイニシャルコストがかかるが、栽培環境の最適化、労働力の削減、知見のデジタル化による新規就農者の増加、脱炭素の促進といった持続可能な農業への転換が期待できる。こうした取り組みは、国内の農業が抱える課題を解決するための特効薬の一つとなっていきそうだ。
文:箕輪弥生