配置転換命令でうつ病発症の女性が提訴 「時短制度」で発生した“未払い残業代”の支払いのみ会社に命じられる
1月30日、東京地裁は、歯科用品販売会社の従業員の女性が会社に対して未払い賃金と損害賠償を請求した民事訴訟の判決を言い渡した。
訴訟の争点
本訴訟の原告は森田ようこさん、被告は歯科用品販売会社「歯愛メディカル」(本社:石川県白山市)。 森田さんは2018年2月に入社、東京支社に勤務。介護施設向け通販カタログ事業の媒体責任者として従事していたが、2021年1月に石川支社への配置転換を命じられ、拒否したところ、東京支社への出社を会社側から拒絶された。その後、うつ病と診断される。 訴訟の主な争点は下記の通り。 ・労働契約上の地位確認(うつ病は役員たちからのパワハラや過重労働に起因していると原告側は主張) ・配置転換命令濫用の有無 ・残業代請求(原告の管理監督者性、および固定残業代の有効性) ・年俸の差額請求(入社時の雇用条件を反故(ほご)にされたと原告側は主張) ・役員からのパワーハラスメント、「時短制度」の強制に関する慰謝料請求 判決では、残業代請求に関してのみ原告の訴えが認められ、被告には未払い残業代約540万円に加えて約445万円の付加金を支払うように言い渡された。 判決後の会見では、原告側担当の児玉明謙弁護士は付加金の金額が「かなり高額」であることに言及して、「裁判所も、会社の労務管理体制に責任があったと認めているのではないかと判断します」と説明。 一方で、森田さんはパワハラや時短制度の強制、配置転換命令などに関する訴えが認められなかったことについて「今回の判決は残念だなと認識しています。会社側の証拠なき主張がすべて拾われ、わたしが提出した証拠は取るに足らないものだと判断された」と語った。
「存在しない事業」への配置転換命令
被告となった会社の本社は石川県であるが、採用の過程において、森田さんは東京支社で働くための「勤務地限定契約」を希望していた。入社後には勤務地限定契約が契約書の内容から外されたが、会社側の担当者は「99.99%東京支社から転勤することはない」と説明したという。 2020年10月、会社側は石川本社への異動を打診。東京の自宅の住宅ローンを払い続ける必要があることなどを理由にして森田さんは異動を断ったが、同年12月に本社への配置転換が命令された。森田さんが精神的苦痛から体調不良の状況にあること(のちにうつ病と診断)を会社に報告すると、会社側は「東京本社での就労は認めない」「会社都合による退職や解雇による処理は考えていない」と返信。 異動の名目は「以前に別の担当者が失敗した事業の再立ち上げ」であったが、森田さんの異動拒否と休職から3年が経過しても、同社は再立ち上げを行っていない。森田さんは「ビッグプロジェクトを3年間も放置することはあり得ない」と指摘して「あの配置転換命令は(自己都合)退職ありきで出したのではないか」と語った。 児玉弁護士も「その時点で存在しておらず、今もまだ存在していない事業に対する配置転換が命じられた」と表現して、配置転換命令は森田さんに自己都合退職を迫るためのものだったと説明。裁判所が命令を適法と判断したことについて「非常に残念」と不服を表明した。