ティム・バートンが語る、『ビートルジュース ビートルジュース』での“原点回帰”「アドリブこそが1作目のおもしろさ」
マイケル・キートン演じる“人間怖がらせ屋(=バイオ・エクソシスト)”のビートルジュースがハロウィンに大騒動を巻き起こす。鬼才ティム・バートン監督が自身の出世作である『ビートルジュース』(88)のその後の物語を描く『ビートルジュース ビートルジュース』が、ついに日本公開を迎えた。 【写真を見る】マイケル・キートンとの黄金タッグが復活!久々の続編に、ティム・バートン監督はなにを思う? 名前を3回呼ぶと死後の世界から現れるビートルジュースの野望は、人間と結婚して楽しい人間界へ移住すること。かつて結婚を迫るも叶わなかったリディア(ウィノナ・ライダー)のことが忘れられずにいたある日、リディアの娘アストリッド(ジェナ・オルテガ)が死後の世界にさらわれてしまう。リディアから結婚を条件に娘を助けてほしいと頼まれるビートルジュースだったが、そこに元妻ドロレス(モニカ・ベルッチ)が現れ、人間界も巻き込んだ大騒動が幕を開けることに。 ■「35年経ったとはとても思えなくて、『つい先週もここに来た』と感じたぐらいです」 オリジナルキャストの再結集に新たなキャストの参戦、手作り感あふれるポップでダークな世界観で、まさに“ティム・バートンワールド”の決定版とも呼ぶべき仕上がりとなった本作。物語の舞台は前作と同じ小さな町ウィンター・リバー。撮影が行われたのも前作と同じバーモント州の町だ。バートン監督は、この“原点回帰”ともいえる試みに挑んだ撮影をしみじみと振り返る。 「バーモント州を再び訪れるのは、本当におもしろい体験でした。『どうなってる?もう建物だらけか?』と気になっていましたからね。けれど、実際には不思議なほどに昔から変わっていませんでした。奇妙でしたよ。35年経ったとはとても思えなくて、『つい先週もここに来た』と感じたぐらいです。それはそれは不思議な気分でした。でもそれもまた、あの土地が持つ雰囲気でしょう。昔もいまも少し独特で、まるで同じスタッフと再び仕事をするようでした。ウィンター・リバーに戻れたことは感慨深かったです。あの場所の空気を感じることで、自分もまたなにかを得られたと思います」。 バートン監督にとっては『ダンボ』(19)以来5年ぶりの長編作品であり、“続編映画”を手掛けるというのも『バットマン リターンズ』(92)以来、実に32年ぶりのこととなった。なによりも、前作の公開から36年という大きなブランクが開いた続編を作ることは決して容易なことではない。バートン監督はいかにして独自の世界観を保っていったのだろうか? 「(脚本家の)アフレッド・ゴフとマイルズ・ミラーとは『ウェンズデー』で一緒に仕事をしたので、彼らのことはよくわかっていました。作品を共に作り上げるのに前向きで、とてもやりやすかったです。(制作については)基本的には1作目と同じような進め方です。1作目では脚本はありながらも、俳優たちのアドリブを作品に取り込みました。そしてアドリブこそが1作目のおもしろさであるということに気付いたんです。今回もある意味、制作を進めながら脚本を練り上げていきました。性格俳優と呼べる実力派キャストたちが多くのものをもたらしてくれました。この点も1作目と同じです。本作を作るにあたっては、あまり深く考えずに、1作目を制作した時の楽しい気持ちに立ち返ることにしたんです。キャスト全員がそれぞれのキャラクターに入り込み、1作目と同じ気持ちで仕事ができたので、とてもワクワクしましたよ」。 ■「自分がどれだけ映画づくりが好きか再確認できました」 前作から35年後の、同じ世界観を描くということもあり、大幅に雰囲気を変えることなくアップグレードさせることが必要だったと明かすバートン監督。そのうえで大きな助けとなったのは、やはり個性と才能にあふれたキャスト陣の存在だろう。 キートンやライダー、デリア役のキャサリン・オハラといった続投キャストに、「ウェンズデー」でもタッグを組んだジェナ・オルテガ、名バイプレイヤーのジャスティン・セローに近年再注目を集める個性派スターのウィレム・デフォー、そしてバートン監督の現在のパートナーでもあるモニカ・ベルッチ。厚い信頼をおけるキャスト陣を揃えたことによって、彼らから自然発生的に生まれる動きやアドリブを尊重することができ、コミカルかつユニークな掛け合いが実現したという。 「この映画では特に(アドリブを促した)ね。マイケルにキャサリン、ウィノナ、ジェナ、ジャスティン、ウィレム、モニカなど、キャスト全員が協力してくれてすばらしかったです。脚本はおおまかな計画のようなもので、それがあるかぎり方向性を見失うようなことはありません。そして、やはり1作目のことを思い出しました。元の脚本と、実際に出来上がったものを比べると、まったく別物ですからね。今回もいろいろなことが起こりました。だから、たくさんの人々の協力の上に成り立つという意味では、アニメーション映画の制作に似ていましたね」。 満足そうに才能あるスタッフ・キャストとのコラボレーションを振り返るバートン監督は、作品の出来栄えにも確かな手応えをのぞかせる。個人的にお気に入りのシーンがあるかと訊ねてみると、「特定の場面ということではありません。それよりも、作品全体を通して感じられるものや、いままで経験したことがないおもしろさがあると思います。そこに注目してほしいです。映画のシリーズものにはこうなるだろうという期待がつきまといます。しかし、本作についてはそうしたお約束もなければ、こうあるべきという理想もありませんでした。それが救いになりました。特定のカテゴリーにも当てはまりませんしね。でもなにかよくわからないことに取り組んでいる時は、ある種の未知なるワクワク感があります。『ビートルジュース』シリーズはワクワクの連続でした」と熱弁をふるう。 そんなバートン監督だけでなく、本作に携わった関係者の多くが「最高に楽しい映画制作だった」と語っているそうで、その現場の空気感が作品にもあらわれていることは間違いないだろう。最後にバートン監督は、自身のキャリア初期とあらためて向き合う貴重な機会となった本作での経験を、大切そうに噛みしめていた。 「楽しみに対する考え方は、人によって大きく違うかもしれません。私の考える楽しさも、おそらく誰とも違うでしょう。でも、『楽しかった』と言えると思います。長いキャリアのなかで最も満足のいく経験でした。何年もこの業界にいると、少し脱線してしまったり、仕事にあまり興味をもてなくなったりすることもあります。でも本作を通じて、自分がどれだけ映画づくりが好きか再確認できました。ビジネス的なことは横に置いて、映画づくりに没頭する。芸術性を追求できて、心がときめく感動的な時間でした。それを楽しいと呼ぶなら、その通りですね」。 構成・文/久保田 和馬