何とすべて実名で告発!「がん患者」の不安に付け込む「詐欺的医療」の実態に迫る凄まじい一冊(レビュー)
近年、がん医療は長足の進歩を遂げ、長期生存が可能なケースも多くなった。だがいまだ治りにくいがんも多く、罹患を告げられた者、余命を宣告された者の精神的動揺は計り知れない。 こうした不安につけこみ、実際には治せる見込みのない治療法で荒稼ぎを目論む医師が、残念ながら少なからず存在している。岩澤倫彦『がん「エセ医療」の罠』は、こうした詐欺的医療の実態に迫った一冊。エセ医療を行う医師や医療機関を、すべて実名を挙げて告発するという凄まじい内容だ。 現在、がんに対しては、標準治療と呼ばれる治療法が確立されている。科学的な根拠に基づく、現在利用できる最良の治療法とされるものであり、基本的に公的医療保険が適用となる。一方、エセ医療者たちの多くが掲げるのは免疫細胞療法というもので、彼らはこれがあたかも最先端の治療であるかのように喧伝し、副作用も少なくステージ4のがんさえも治療可能であると、甘い言葉をささやきかける。患者たちは最後の希望にすがり、実際には効果の実証されていない治療に巨額を投じてしまうのだ。悲しいかな、ふだんは合理的な思考をする人たちも、いざ自分ががんとなると、こうした甘言に搦め捕られてしまうケースが多いという。自分は大丈夫、とは誰も言えないのだ。 テレビCMなどで話題の線虫によるがん検査なども取り上げられ、一読に値する。暗躍するエセ医療から身を守るため、現代人なら読んでおくべき一冊だ。 [レビュアー]佐藤健太郎(サイエンスライター) 1970年、兵庫県生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。医薬品メーカーの研究職、東京大学大学院理学系研究科広報担当特任助教等を経て、現在はサイエンスライター。2010年、『医薬品クライシス』で科学ジャーナリスト賞。2011年、化学コミュニケーション賞。著書に『炭素文明論』『「ゼロリスク社会」の罠』『世界史を変えた薬』など。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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