「俺を置いて先に行ってくれ」「眠るな、眠るなよ」突然ドドドーッと地響きが…台風で遭難→足をケガした大学生の“運命”
「眠るな、眠るなよ」と声をかけ合いながら
さて、これからどうするか、ということになった。 D大は行動するという。T大も、移動するかビバークするか選択を迫られたが、台風の余波がまだ襲う可能性もあり、それに夜中に歩くのは危険だと思われ、馬鹿尾根で夜明かしすることを決定した。 仙丈ヶ岳へ向けて出発するというD大を止める手立てはなかった。自分たちも何の用具もなく、しかも雨ガッパは着ているものの下はシャツ1枚である。みんな靴下さえはいていない。D大に対して自分たちが何かしてあげられるという状況ではなかった。 午前1時40分。D大は、風雨荒れ狂う中、出発した。女子には細引きでアンザイレンしていた。 馬鹿尾根に男7人が残った。 ほんの数時間前まではテントの中でシュラフに入り眠っていたのが、今は裸同然で馬鹿尾根上にいる。 とにかく明るくなるまでは行動しない方がいいだろう。それには、安堵と共に襲ってくる寒さに耐えなければならない。 万が一に備えてザックのパッキングも済んでいたのだが、あまりに突発的だったため、不覚にもザック一つ持って来なかった。 「明るくなるまでガンバローぜ。明るくなれば、台風も去っていることだし、動きやすくなる。そして両俣へ下って荷物を撤収してきて、北沢へ戻ろう。合宿もあと2日っていうところで残念だけど、しょうがないやね」 雨風激しい馬鹿尾根上でのビバークはひどいものだった。 遠くからは木が倒れる物音と思われる轟音が聞こえてくる。地すべりらしい物音も聞こえてくる。そのたびにD大パーティーが気になった。しかしどうすることもできない。 Tシャツに雨ガッパを着ただけのT大の7人は、寒さをしのぐためにおしくらまんじゅうを始めた。むなしかった。 一列に並んで隣の人の胸をマッサージし合ったりもした。歌も歌った。嵐の轟音に負けじと大声で歌った。 「明るくなるまで頑張れ。台風は去っているぞ」と励まし合う。 体の芯まで冷える寒さが一晩中続く。7人は「眠るな、眠るなよ」と声をかけ合いながら体を動かし続けた。 「食料はどうかき集めても足りない」台風で遭難→豪雨で夜を明かし、暖かそうなテントの幻覚まで…あり得ない惨劇の“顛末” へ続く
桂木 優/Webオリジナル(外部転載)
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