資産10億超え投資家が語る「四季報の行間」を読む重要性
株式投資で1億円以上を稼ぎ出し、個人投資家から目標とされる存在の「億り人」。では、億り人はどのように資産形成を行ってきたのか。その投資の極意をひもとく連載企画が「億り人の『極秘投資術』」です。 今回は公認会計士で、個別株投資によって21年で9億円稼いだ敏腕投資家のみつさんです。主に配当金の支払い可能性を重視してバリュー投資を実践しているというみつさん。後編では『会社四季報』の活用法や足元で注目している銘柄などを聞きました。 前編 で不動産投資の話をしましたが、今回は肝心の株式投資の手法についてお話ししたいと思います。 まず、主な情報の入手ルートは、『会社四季報』とマネー誌です。「マネー誌に載ってから買っても、もう遅いのではないか」という意見もありそうですが、決してそんなことはありません。もちろん、マネー誌に取り上げられているから購入するのではなく、それを端緒として面白いと思ったら、『会社四季報』を使って分析するようにしています。 紙版の『会社四季報』を読むときに、とくに重視しているのが、業績予想記事ならびに材料記事の部分です。企業が出してくる業績予想を見て、投資するべきかどうかで迷ったときは、ひとまず『会社四季報』に書かれている記事に立ち返るようにしています。 もちろん、財務や決算の内容なども見逃してはいけません。そちらは会社決算資料や「会社四季報オンライン」などでチェックしています。 ■四季報で「経営破綻」を先読み さて、記事を読むにあたっては、行間に書かれていることを、いかに読み解くかが大切です。 具体的な例を挙げてみましょう。福井県の老舗企業に「江守グループホールディングス」という企業がありました。1906年に創業され、1990年代から中国をはじめ、アジア圏にネットワークを広げ、ケミカル商材を取り扱っていた企業です。 順風満帆で業績を伸ばしていたのですが、2015年2月に、2015年3月期の第3四半期決算提出を延期すると発表し、翌月に決算を発表したものの、その内容は莫大な貸倒引当金の計上と債務超過でした。そして4月30日に民事再生法の適用を申請することになったのです。 実は、『会社四季報』はこの事態を予見した記事を掲載していました。それは、江守グループホールディングスが経営破綻する前、2014年頃の『会社四季報』に掲載された記事です。その記事には、会社の売掛金が異常に膨れ上がっていることが指摘されていたのですが、それに対して『会社四季報』は「会社は中国事業の急拡大が理由」と記述されていました。 私はその記事を読んだ瞬間、「あぁ、四季報の記者は会社側が言っていることを信用してないのだな」と思ったのです。もちろん、そこまで文言に書かれているわけではないですが、文章の雰囲気を読むという意味で、少し冷たいというか、完全に信用しきっていないのだと私は理解しました。 その時点で、江守グループの株価は相当、割安ではあったのですが、買ってはいけないと思い、逆に空売りを仕掛けたのです。結果的に大きなリターンを得ることができました。 『会社四季報』の記事欄に書かれていることの行間を読むことによって、大きな収益チャンスが得られることの好例だと思っています。 ■四季報スクリーニングも活用せよ 「会社四季報オンライン」も重要な情報源です。「会社四季報オンライン」では、お宝銘柄を発掘するためのスクリーニング条件が充実していて、私は来期配当利回り、来期PERなどで銘柄を絞り込んでいます。 来期の業績予想などに関わる部分をすべてスクリーニングするためには、月額5500円のプレミアム会員になる必要があるものの、その会費を払っても十分に元が取れると考えています(来期配当利回り・PERに関してはベーシック会員で可能)。 また、東洋経済予想が会社予想に比べて強気かどうかのスクリーニングも役に立ちます。これは今期営業利益予想が会社の予想より10%以上大きい銘柄を、乖離率が大きい順にランキングしたものです。 これらのスクリーニングも活用して銘柄を絞り込み、最終的には前述したような、『会社四季報』の記事欄に書かれている内容をチェックして、投資するかどうかの最終判断を下しています。 このように、さまざまな情報源やスクリーニングを駆使して選んだ銘柄のうち、最終的に投資するのはバリュー株がメインになりますが、投資する銘柄を選別するうえで何よりも重視しているのは、配当を支払う力と、それに関する企業側の意思です。 ■みつさんがいま注目する「割安銘柄」 配当を支払える力とは、言い換えると財務面の余力と、配当を払えるだけの利益があるかどうかです。ただし、配当を払う力があっても配当を払う意思がない会社もあります。そういう会社については、その意思が変わる可能性が見いだせない限りは投資対象にはなりません 業績が伸びているのであれば、それに伴って配当金額を増やしているかどうか、また、どのような方針で配当を決めているのか、といった点を細かく見ていきます。こうした配当戦略については、各企業が自社のホームページで配当方針を提示しているので、それを読んで、企業側は当面の配当戦略をどう考えているのかを読み取っていきます。 また決算書には、業績を示す損益計算書だけでなく、財務内容を示すバランスシートや、キャッシュフロー計算書も掲載されています。これらにも目を通して、配当金を払い続けられるだけの財務的な余力があるかどうかを判断します。 配当性向とともに総還元性向にも注目しています。これは配当金支払総額と自己株式買いによる拠出額を足して、当期純利益で割って求められます。自社株買いは発行済み株式数を減らすので利益が自社株買いによって変わらなければ、その分、1株当たり利益が増え、配当性向が一定であれば増配に繋がります。 具体例を挙げるとすると、「リケンNPR(6209)」が代表的です。昨年10月に、リケンと日本ピストンリングが経営統合して生まれた企業ですが、総還元性向で70%以上を目指しています。 ピストンリングはエンジン車に用いられる部品の1つです。EV化が進むなかで、需要が先細りになりつつありましたが、ここに来て、完全EV化は困難という見方が強まりつつあります。 EV化が進めば使われなくなるピストンリングですが、その流れが変われば、リケンNPRに対する市場への期待も高くなるのではないか、と考えています。負ののれんが発生するため、2024年3月期のPBRは0.6倍程度とかなり低く、バリュー投資の観点からも魅力的です。 (構成:鈴木雅光) ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
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