J-REITの投資対象は? 利益の源泉はどこから得られるのか?
物件の入れ替え時に発生した売却益も投資家に分配
J-REITは、運用期間の定めのないファンドなので、優良な物件を比較的長い期間にわたって保有することで安定的な賃貸収入を得ていくことを基本的なスタンスとしています。ただし、物件の稼働年数や収益性、地域のバランスなどを考慮して、保有する物件の一部を売却し、新しい物件に入れ替えたりすることもあります。その際に、売却した物件の取得価格と売却価格の差に相当する売却損益が発生します。 前に述べた賃貸収入とこの売却損益は、配当の支払いにより投資家に分配されることになります。この配当が、J-REITの投資価値の第一の源です。 ただし、保有する物件を実際に売却しなくても、その売却想定価格が上がると、J-REITの保有資産の価値が上がっていることになるので、J-REITの価格自体も上がっていくことになります。保有物件の価値の上昇に伴うJ-REIT自体の価格上昇が、J-REITの投資価値の第2の源です。 結局のところ、J-REITが保有する不動産の価格上昇は、 ・実際の売却益を通じて配当が増加する ・実際に売却しなくても、保有資産価値の上昇によりJ-REITの価格が上がる という2つのルートでJ-REIT投資家に利益をもたらすことになるわけです。
不動産価格はどう決まるのか?
それでは、不動産価格はどのようなときに上がるのでしょうか。 先ほどNOI利回りの話をしましたね。一定の金額を投じて物件を取得すれば、その後その物件のNOI利回りに相当する利益を継続的に得ることができます。言い換えると、不動産は一定の利回りを得られる金融資産のひとつとも考えられるのです。 この性質は、取得後に定期的にクーポン(債券利子)収入を得ることができる債券に少し似ています。ただし、一般の債券のクーポンが不変なのに対して、不動産のNOIは必ずしも確定していません。また、債券であれば満期時に確定した額面金額が返ってきますが、不動産の場合は、売却時にいくらで売れるのかが未確定です。ただ、価格がどう決まるかという理屈は、債券も不動産も共通です。 まず、債券価格は、将来得られるクーポンと満期時の償還金額をすべて現時点の価値に換算して合計したものとして表されます。 債券価格 = 1年目のクーポンの現在価値 + 2年目のクーポンの現在価値 + ・・・ + 満期時の償還金額(額面金額)の現在価値 同様に、不動産価格は以下の式で表すことができます。 不動産価格 = 1年目のNOIの現在価値 + 2年目のNOIの現在価値 + ・・・ + 売却時の売却価格の現在価値 将来の収入が未確定な分、不動産の方が債券よりも不確定要素が大きいと言えますが、利点もあります。通常の債券のクーポンは経済状況が変わっても増額されることはありませんが、不動産の場合は賃料収入が上がってNOIが増加する可能性があるのです。NOIが増加すると、上式で表される不動産価格の上昇につながります。 たとえばインフレになると、不動産の賃料も上がっていくと考えられます。現在の日本はインフレ率が非常に低い状態が続いているので、あまり実感はないかもしれませんが、長期的に考えるとインフレは個人の資産形成にとって極めて大きなリスクです。インフレ時に価格が上がる不動産は、そのインフレに非常に強い資産といえます。 そして、この点が投資資産としてのJ-REITの大きな魅力でもあるのです。 (ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役・田渕直也) 著書に『入門 J-REITと不動産金融ビジネスのしくみ』、『入門 金融のしくみ』『世界一やさしい金融工学の本です』(すべて日本実業出版社)