「こういう生き方もあるよ、と」 音楽座「森 彩香」が舞台から届けたいこと
ミュージカルといえば海外から輸入した舶来モノが多いが、そんな中でオリジナルかつ良質の作品を一貫して上演し続けるのが1987年旗揚げの「音楽座ミュージカル」だ 【写真をみる】舞台の上とのギャップがスゴい! 「森 彩香」のかわいいオフ姿
今月29日から東京・赤坂の草月ホールで「ホーム」を6年ぶりに再演。血のつながりがない家族の昭和から平成にかけての物語で、子どもを産んだ後に失踪する母・めぐみと娘・広子の2役を森彩香(さやか・31)が演じる。 森が言う。 「6年前の2018年にも同じ2役を演じましたが、その時は入座3年目。悩んだ記憶ばかりで、消化できないまま終わったように思います。今回はダンスシーンも増えて、衣装から舞台装置も変わって、新作に挑んでいるような気持ちです。音楽座では珍しくコミカルな作品で、今回の台本を読んで“風に吹かれるように演じたい”と思いました。こういう生き方もあるよ、と。作品の力を信じて演じたいですね」
きっかけはジャッキー・チェンの「ナイスガイ」
小学1年生の時に、演じることの素晴らしさに目覚めたという。きっかけは世界的なアクションスター、ジャッキー・チェン(70)の主演映画「ナイスガイ」を見たことだった。 「危険なアクションシーンに体当たりで挑んでいて、どの一瞬も命懸け。私もこういう生き方をしたいと思いました。映画の末尾に添えられたNGシーンは何十回も見ていました」(森) 大学は、古田新太、渡辺いっけいらの個性派俳優が輩出した大阪芸術大に進む。そこで音楽座ミュージカルのメンバー指導によるワークショップに参加した際、 「あなたたち本気なの?」 と怒られたという。 「おかげでみんな音楽座ミュージカルが嫌いになりました。でも、卒業後の進路を決める際に、音楽座ミュージカルのことを思い出して、その時になぜ怒られたかを知りたくて受けたら、合格したんです」
入座後は次々と大役に抜てき
入座後は次々と大役に抜てきされた。サン=テグジュペリ作「星の王子さま」のミュージカル権を世界で唯一獲得した「リトルプリンス」では王子の役、遠藤周作の「わたしが・棄てた・女」を原作にした「泣かないで」では森田ミツ役、浅田次郎原作の「ラブ・レター」ではナオミ役。少年から陰のある女まで多彩だ。 「演じる役に“伴走させてもらっている”感じです。舞台に立つたびに人間としても成長させてもらっています」 最近は声優としても活躍。アプリゲーム「ポケモンマスターズEX」のトロバ役、海外ドラマ「クリミナル・マインド」のハーロー役と“芸域”は広がるばかり。 「声優さんは単に台本を読んでいるのではなく、体をちゃんと使って心のやり取りをしている。その役になり切って作品を愛している。私も刺激を受けました」 入座して10年目となる来年は「リトルプリンス」が一年を通して上演される予定だ。 「王子を演じて人生が変わりました。私たちには届けたいものがあり、届けたい人がいる。一人でも多くの人に音楽座ミュージカルを知ってほしいと思います」 最初の印象こそ「嫌い」だったが、それをきっかけに人生が変わり、今や先頭に立って音楽座ミュージカルをけん引する森である。
「週刊新潮」2024年11月14日号 掲載
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