「陰陽師0」 ネット時代に通じる平安の「悪意」、安倍晴明が立ち向かう シネマプレビュー 新作映画評
公開中の作品から、文化部映画担当の編集委員がピックアップした「シネマプレビュー」をお届けします。上映予定は予告なく変更される場合があります。最新の上映予定は各映画館にお問い合わせください。 【場面カット】映画「マリウポリの20日間」より ■「陰陽師0」 平安時代の陰陽師、安倍晴明を主人公とした夢枕獏の小説シリーズを原作に、晴明の〝学生時代〟を描くオリジナルストーリーのアクション大作。佐藤嗣麻子監督が脚本も手がけた。 晴明は山﨑賢人。「キングダム」シリーズを筆頭に「ゴールデンカムイ」や配信ドラマ「今際の国のアリス」など、ともかく大作の主役を片っぱしから演じているが、クールな晴明を既視感なく見せて見事だ。 晴明は、源博雅(染谷将太)とともに徽子女王(奈緒)をめぐる怪奇事件の解明に挑む。ふたりは、ホームズとワトソンのようなコンビ感をうまく醸し出す。 北村一輝、小林薫ら実力派が周りを固める。堅実なキャスティングは華やぎには欠けるが、偽りや虚飾を見破り、真実を見つめる晴明の人物像をくっきりと浮かび上がらせる。 晴明が立ち向かう悪意は、インターネット時代に交錯する虚々実々の情報とも重なり、きわめて現代に合致した主題を扱っているといえる。 佐藤監督の夫は山崎貴監督。山崎監督の「ゴジラ-1・0」ばりの迫力満点の特殊効果も登場する。 19日から全国公開。1時間53分。(健) ■「マリウポリの20日間」 2022年2月、ロシアに侵攻されたウクライナ東部の都市、マリウポリの人々の様子を、AP通信のウクライナ人記者、ミスティスラフ・チェルノフと取材チームが記録したドキュメンタリー作品。米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した。 ロシア軍が迫る中、チェルノフらはマリウポリに入る。「戦争は爆発ではなく静寂から始まる」という言葉が、心にずしんと響く。ロシアの爆撃で、若者や子供が次々と死んでいく。胸のすくような反撃場面はない。想像もつかなかった理不尽が、街と人々を踏みにじっていく。戦争とは。正義とは。重い問いかけが脳裏を離れない。ウクライナ・米合作。 26日から全国公開。1時間37分。(耕)