“世界的俳優”ソン・ガンホ、“新人”として挑戦した作品に「ドラマだからこそできる表現があると感じた」<サムシクおじさん>
1960年代の混沌とした社会を舞台にした韓国の骨太ヒューマンドラマ「サムシクおじさん」(ディズニープラスで独占配信/全16話・初週5話配信、以降毎週水曜2話ずつ、最終週3話配信)。同作で謎の政治フィクサー“サムシクおじさん”こと主人公パク・ドゥチルを演じるソン・ガンホ、熱い心を持った青年キム・サン役のピョン・ヨハン、チュ・ヨジン役のチン・ギジュ、そして財団理事レイチェル役のティファニー(少女時代)ことファン・ステファニー・ヤンに、キャラクターの魅力や現場エピソードを聞いた。制作発表会見の内容も交え、キャスト陣のコメントを通して作品の魅力に迫る。 【写真】スタイル抜群!ティファニーの全身ショット ■“誰もが1日3食食べられる国を”――サムシクおじさんの野望を描く “誰もが毎日3食(サムシク)を食べられる豊かな国を作る”という野望を胸に、政治の舞台裏で暗躍する“サムシクおじさん”ことドゥチル(ガンホ)。彼は、自国の運命をなんとか好転させようと奔走する野心あふれる青年キム・サン(ピョン・ヨハン)と出会い、時には対立しながらもパートナーシップを組んで政治の世界に打って出る――。 日本ではディズニープラスのスターで独占配信中の同作は、映画「パラサイト 半地下の家族」(2020年)や「ベイビー・ブローカー」(2022年)などで世界的評価を受けるベテラン俳優・ガンホにとって、意外にもドラマシリーズ初挑戦作。配信開始に先立って行われた制作発表会見も、ドラマ界では“新人”なガンホの“後輩エピソード”でおおいに盛り上がったが、ガンホ自身は初のドラマ出演をどのように捉えていたのだろうか。 ■ソン・ガンホ「緊張もするし、ワクワクしています」 ――ソン・ガンホさん、「サムシクおじさん」は一言で言うと、どんなドラマですか?ガンホさんは今回が初めての連ドラ出演だったそうですね。 ソン・ガンホ(以下、ガンホ):この物語は1960年代初め頃から始まります。私も60年代生まれですが、韓国ではこの時代、一食一食に切実な思いがあったんです。そんな時代を舞台に、食べること、つまり胃袋を満たすことから始まって、徐々に頭に上って脳へ行き、そこから最終的には徐々に心臓に降りてきて、最後は熱いハートで終わる、そんな物語です。 私は映画でデビューして28年、舞台からは35年ほど、俳優として活動してきて、今回が初めてのドラマシリーズです。緊張もしていますし、ワクワクもしています。いろんな思いが交錯しています。 ――謎の政治フィクサー“サムシクおじさん”を取り巻くキャラクターも気になります。共演の皆さんが演じられたキャラクターについて教えてください。 ピョン・ヨハン(以下、ヨハン): 私が演じたキム・サンはアメリカで博士号をとったエリートです。母国に帰り、豊かな国を夢見て働いているんですが、その計画が一度台無しになるんです。そこへサムシクおじさんが現れて“夢をかなえてあげましょう”と言われ、ともに夢を追い始める。そんなキャラクターです。 ――キム・サンはサムシクおじさんの心をがっちり掴むキャラクターですが、そんな魅力あるキャラクターを作るために演技で重視した点はなんですか? ヨハン:うーん(苦笑)。 ガンホ:(ヨハンのひげを触って)ひげを生やしました! ヨハン:(笑)。ドラマを最後まで見ていただければ、魅力を感じていただけるんじゃないかと思います。演じる上で大切にしたのは…愛ですね、愛です(笑)。 ■ティファニー、役作りで「ケネディ夫人のリサーチをたくさんしました」 ――チン・ギジュさん演じるヨジンのキャラクターについて教えてください。意志の強いキャラクターだと感じましたが、ギジュさんは演じるにあたってヨジンのどの面に注目しましたか? チン・ギジュ(以下、ギジュ):チュ・ヨジンは国文科をトップの成績で卒業したエリートです。夢も、高い能力も持っているんですが、野心的というわけではないんですね。そして、ヨジンは物語の中で大きな変化を経験します。その変化を経験して、ヨジンがその後どんな選択をするのか、その部分がとても気になったというのが、この作品に参加することになった大きな理由だと思います。 おっしゃるように、ヨジンはとても芯の強い人物です。私が思うに、サムシクおじさんが手を差し伸べた時に唯一その誘惑に負けない人物なんじゃないかなと思います。私はヨジンというキャラクターに最初から惹かれましたし、ヨジンを演じたくてこの作品への出演を決めました。 ――ティファニーさん演じるレイチェルはどんな人物ですか?現代とは異なる時代で、とても地位の高い女性を演じられましたが、ファッションやしゃべり方などで特別に準備されたことはなにかありますか? ティファニー:私が演じたレイチェルは財閥の末娘で、エリートを育成するオルブライト財団の理事です。韓国からアメリカに渡り、裕福な生活を経験して母国に戻り、財団を立ち上げる、夢を模索する人物ですね。自分の野心に突き進むキャラクターが多い中、彼女は唯一、サポートする立場ですね。 ティファニー:ファッションに関しては、衣装チームの方々がとても入念に準備してくださいました。私は、60年代ということでジェーン・バーキンやジャクリーン・ケネディなどについてリサーチをたくさんしました。その時代に合ったファッションのパターンや色味はどんなものなのか、といったことです。また、カリスマのある姿が出せるといいなと思い、話し方も、当時のインタビューをたくさん調べてみました。特に、ジャクリーン・ケネディのインタビューをたくさん見て、言葉の響きやそういったことを勉強しました。 ■ピョン・ヨハン「とても楽しく、集中できた現場でした」 ――夢と野望の熱い物語なので、撮影現場がどんな雰囲気だったのか気になります。ガンホさんとご一緒されて印象的だったエピソードはありますか? ヨハン:とても楽しく、集中してできた現場でしたね。いい作品を作るために集中しなければという気持ちがありましたので。セリフもけっこうロングテイクが多かったんですが、自分がちゃんと演技を遂行できているのかというプレッシャーもほどよくあった現場でした。ちょっと呼吸を一個間違えたら過呼吸になるところでした。印象的だったのはやはり…サムシクおじさんがスタッフと俳優たちに牛肉をおごってくださったことです(笑)。 ガンホ:ええ、いいお肉を皆さんにごちそうしました! ヨハン:サムシクおじさんは「3食欠かしてはいけない」と言っている人ですから。 ガンホ:本当にたくさんの感動をいただいた現場でした。特にピョン・ヨハンさんには。それに、ドラマの現場で先輩の皆さんがどんな演技をされるのか、勉強になりました。ドラマならではの表現の度合いというんでしょうか、それがよくわからなくて、適正なさじ加減をつかむためにチン・ギジュ先輩に「今ので大丈夫?」なんて、たくさん聞きましたね。最初は親切に答えてもらったんですが、だんだん答えてくれなくなりました(笑)。 ギジュ:すべてのテイクが完璧すぎたんです。私としてはガンホ先輩の演技を学ぶつもりで見ていましたし、モニタリング(モニターで見る現場の演技)がすでに編集済みのものに見えたんです。一生懸命学ぶつもりで見ていたら「どうだった?」って聞かれて…指摘することは一つもなかったんです。本当に大変でした! ヨハン:手のかかる“後輩”でしたね(笑)。 ガンホ:先輩たちがみんな気楽に接してくださって、本当にありがたかったです。 ■ソン・ガンホ「ドラマだからこそ可能になることもある」 ――今、韓国ドラマは世界的にとても人気を集めていますが、今回初めてドラマの現場に参加して、“ドラマにしかできないこと”はどんなことだと思われましたか? ガンホ:毎回作品に参加する時に一番大切にしているのは「その作品が何を求めているのか」ということですね。俳優として、その作品にどれほど溶け込めるのかが一番大事だと思います。毎回、そういう考えを持って演じてきましたし、今回もそれは同じです。 その上で、ドラマの一番大きな強みはやはり、映画よりも時間的な制約が少ないという点ではないかなと思います。映画では時間的な制約のために挑戦できない表現やストーリーも、ドラマだからこそ可能になることもあります。そういう強みがドラマにはあるなと、今回感じましたね。30年ほどずっと映画だけやってきたので、どうしてもドラマの長いストーリーを作る過程は大変にも感じましたし、一方でとても興味深く、楽しくもありました。ここにいらっしゃる俳優の皆さんと一場面、一場面、長い期間、長いストーリーをこうして作る過程が、映画とはまた違った面白さがある、とても喜びの多い作業でした。 ◆取材・文=酒寄美智子