急成長のレーザーテックに「空売り屋」が標的のナゼ、注目指標「会計利益先行率」のランキングも公開
この5年で累計1070億円の純利益を計上した一方で、営業活動によって実際に得たキャッシュフローは699億円にとどまる。総資産は同期間で500億円から2715億円まで怒涛の勢いで伸びているが、現預金の計上額は131億円から297億円とほとんど伸びておらず、総資産に占める割合も年々減少している。 総資産の伸びの中身はほとんど棚卸資産の増加だ。足元で棚卸資産の比率は56%で、東京エレクトロンやディスコ、KOKUSAIといった国内のほかの半導体製造装置メーカーは20~30%であることを考えるとその水準の高さが目立つ。
こうした、現金の代わりに在庫が積み上がっている財務状態を指摘して「不正会計の兆候」としたのがスコーピオンのレポートだった。 一方で、このレポートでは触れられていない点もいくつかある。1つは、レーザーテックが売上高の計上に「検収基準」を採用していること。そして、検収までの期間の長さだ。 レーザーテックの検査装置は顧客である半導体メーカーに納入後、同社のエンジニアが現地で稼働できる状態に調整を行う。調整が終わり、顧客が「検収」に同意した場合にのみ、売上高に計上される。
売り上げとして計上されるまでは、すでに出荷されていても棚卸資産としてバランスシートに計上され続けるわけだが、その期間はおよそ2年にもおよぶ。EUV露光装置はその技術的な難易度の高さから、調整・立ち上げに時間がかかるためだ。 ■受注残は年間売上高の2倍以上 もう一つ、こうした長期の製品リードタイムに加えて注目すべきは膨大な受注残だ。 現在同社が抱えている受注残は足元で約4000億円。年間売上高の2倍以上だ。つまり2年をかけて検収が終わり、顧客から代金の回収が終わる前から次の製造の手当てをする必要があり、運転資金が逼迫する。これが手元にキャッシュが残らない要因につながっている。
運転資金が枯渇することを避けるためにも、出荷時に顧客から「前受金」として一部代金を受け取ることはなっているが、現在受注が殺到しているEUV向けでは販売代金の数割程度だという。 カラ売りファンドがレーザーテックに目をつけたのは、圧倒的な売買代金や個人投資家の多さから株価の下落余地が大きいと踏んだことに加えて、「会計利益先行率」の高さゆえともいえるだろう。 この指標は、会計上の純利益が実際のキャッシュフローに対して何倍あるかを表したもの。企業の収益の「質」を判断するもので、利益に実際のキャッシュフローの裏付けが伴っていない、つまり会計利益先行率が高い場合、収益の質が低いともいえる。