私のモットーだった、創造的な仕事をするための3つの条件~ソウル、インチョン(前編)【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第50話 新型コロナウイルスをきっかけにコロナウイルスの研究を始めた筆者は、これからの研究対象の候補のひとつであるMERSコロナウイルスの情報を得るため、韓国へ飛んだ。 【写真】出張で食べた韓国料理 * * * ■コラム・エッセイの書き出し 韓国・インチョンにある、オークウッド・プレミア・ホテルの50階の部屋で、この原稿を書いている。 ――こういうのは、村上龍の『すべての男は消耗品』シリーズのエッセイで常用されていた冒頭句である。この連載コラムでも触れたが、私は文筆家に憧れを持っている(18話、32話)。そのひとつの理由に、村上氏のエッセイにあるような、「ホテルに逗留して文章を書く」という姿に憧れているところがある。出張が多い現在の私はそれと似たようなことができる境遇にはあるし、「文化人のホテル」とも呼ばれた東京・御茶ノ水にある「山の上ホテル」に(自腹で)宿泊したりしたこともある(32話)。しかし今、私がこのホテルに滞在している理由は、もちろんこの原稿を書くことではない。 韓国に来るのは、ちゃんと数えてみるとこれが3度目。2012年と2013年に、それぞれエイズウイルスに関する研究集会に参加するために訪れていた。以来、10年振りの訪韓である。 ほかの国に比べて、「韓国に出張!」というのは正直あまりテンションが上がらない。それは韓国を卑下しているというわけではまったくなくて、「外国感」が非常に薄いからである。羽田空港から金浦国際空港までわずか2時間。九州まで行くのとほとんど変わりがない。時差もない。もちろん言語は違うので何を話しているのかはさっぱりだが、韓国語のイントネーションは日本語のそれととても似ているので、ボーッと聞き流していると、日本語と区別がつかなかったりもする。そう考えると、ハングルの看板や標識も、なんだか文字化けしただけのもののようにも見えてきたりする。