「やめられない、止まらない」オジイのクンセイいか 知る人ぞ知る季節物にリピーター続出 【どローカルリポート】沖縄
オジイの季節がやってきた。那覇市港町の安謝小船溜(あじゃこぶねだまり)に趣深い建物がある。例年11月ごろになると煙突から煙が上がり、それが合図かのように客が集まる。店の看板はとうになくなったが店名は「イカ屋」。店主の譜久島正雄さん(82)のてぃーあんだー(手の油=愛情のスパイス)たっぷりの「クンセイいか」が人気で、購入目的に来県するリピーターもいるほどだ。「一度食べた客は、必ずまたやって来る」と味に自信を持つ譜久島さん。おいしさの秘訣は「仕事もイカも、よんなーよんなー(ゆっくり)」あとは「腕だ」としたり顔。「働く分だけ売れればいい。毎日楽しくやらんと」とシーズンの到来を楽しんでいる。 【傑作動画】「やめられない、止まらない」オジイのクンセイいか 沖縄
伊良部島出身の譜久島さんは20代のころに沖縄本島に移り住み、塗装業などをしながら漁業に携わり、約20年前、セーイカ(ソデイカ)の加工品販売を始めた。「もうかったさ。あちこちに似た店ができた。今はほとんど残っていないよ」と懐かしむ。店はセーイカの時期に合わせ11月ごろ~4月ごろの期間限定営業となっている。 「クンセイいか」は釜の鉄板の上に金属製のすのこを敷き、上にイカを並べてふたで密閉し蒸し焼きにする。何度もひっくり返しながら数時間掛けて熱を通す。焼き上がったイカはじっくりと蒸らし、しばらく寝かせる。自家製の特製ソースの調理も全て、一人手作業で行う。 まきは港に流れ着いた流木などを使用する。クンセイと名付けられてはいるが、実は煙でいぶす「スモーク」の工程は一切ない。譜久島さんは「みんながクンセイというし、クンセイでいいんじゃないか」と細かいことは気に留めないのも魅力のひとつ。 サメのかみ痕があるイカや身がさけたイカなど市場価値の下がったイカもあえて使う。使用しない部位はマグロの内臓などと混ぜ合わせ「イカみそ」として、油みそにして販売するなどSDGsを体現する。
今年度の営業が始まった3日、那覇市沿岸漁協のイベントとも重なり、店前には客が列を作った。用意した40パックは午前中に売り切れ、いったん店を閉め、追加生産する忙しさ。それでも、昼寝も三線演奏も挟みながらのマイペース営業で、計80パックを完売した。SNSで知ったという観光客らも多く、購入したイカを食べきってしまい、一日に二度来店する客もいた。女性客は「この時期になったのでオジイの顔を見に来た」と掛け合いを楽しんでいる様子だった。 譜久島さんは「『あのオジイはいつも寝てばかりいる』と言われるが、汗かくぐらい働いているさ。オジイは忙しいよ」とおどけて笑う。
The Ryukyu Shimpo Co., Ltd