介護離職した献身長女、たまに顔を出す程度の遠方住み長男。法定相続分は“平等”…80歳女性「長女へ多めに遺産を残すには」【司法書士が解説】
一部の相続人へ多めに財産を残してあげたい。こんなとき、どうすればよいのでしょうか? 佐伯知哉氏(司法書士法人さえき事務所所長)が事例を挙げて解説します。
献身的に介護をしてくれた長女へ、多めに財産を残してあげたい
【YouTube】司法書士さえき事務所チャンネル ------------------------------------- 【事例】 80歳女性・Aさん(仮名)には、男女1人ずつ、計2人の子どもがいます。Aさんの夫は10年前に亡くなっています。Aさんが要介護状態になってから、長女は仕事を辞めて身の回りの世話をよくしてくれている一方で、長男は遠方に住んでいるため、たまに顔を出す程度です。 Aさんは、献身的な長女には財産を多く残してあげたいと考えていますが、そのためにはどんな対策を取ればよいのでしょうか? ------------------------------------- 一方の子どもが親の近くに住んでいて、もう一方の子どもは遠方に住んでいるとなると、近いほうの子どもが何かと身の回りの世話をすることになるケースは珍しくありません。 仕事を辞めてまで介護をするとなると、長女の家庭にも負担がかかるわけですし、「多めに財産を残してあげたい」と思うのは自然なことでしょう。 Aさんの気持ちを叶えるには、対策を打つことが重要です。
もし「無対策」のまま相続が発生したら、どうなる?
対策の重要性を理解するために、まずは最悪の結末から見ていきましょう。もしAさんが何も対策をせずに亡くなってしまった場合、遺産はどのように分けられるのでしょうか? Aさんの相続人は長女と長男の計2人、法定相続分はそれぞれ50%です。 ただし長女としては、仕事も辞めたうえで介護をしていますし、やはり「多めに相続したい」という気持ちがあってもおかしくありません(⇒寄与分〔きよぶん〕の主張)。 長男が「介護を頑張ってくれたからね。もちろんそうしよう」と同意してくれれば、特に問題はありません。しかし長男が「法律に従って平等に相続したい」と考えた場合、遺産分割協議がまとまらない可能性があります。 寄与分とは、亡くなった親の家業を無給で手伝っていたり、療養介護を献身的に続けていたりなどの「特別な寄与」をした相続人に対して認められ、寄与者は認められた分だけ多くの財産を相続できるという制度です。 寄与分は遺産分割協議で話し合い、相続人どうしで決めるのが原則です。ただし、相手方の相続人が認めない場合は裁判所上での話し合い(遺産分割調停)に発展し、長期化したり、相続人どうしの関係破綻に繋がったりする可能性も出てきます。 寄与分はあくまで「特別な寄与」ですので、認められるためのハードルはそれなりに高く、通常の介護では難しいと言われています。例えば、本来であればデイサービス等の有料介護サービスを利用すべき状況でも子どもがすべて世話をしていたとなれば、サービスを利用した場合の負担を減らしたとして、寄与分が認められる場合があるかもしれません。しかし「受診のために定期的に送り迎えをしていた」などの場合では、認めてもらうのは難しいかもしれません。 また寄与分を認めるにしても、相続分をどれだけ増やすのかについては、寄与者がいかに貢献したかを証明しなければならないという難しさもあります。 このように、被相続人本人が「長女には多めに残したい」と考えていたとしても、何も対策しないまま亡くなってしまうと、寄与者の貢献が曖昧になる恐れがあり、相続人どうしの話し合いに委ねるしかないので、相続人間の関係が悪くなる可能性もあります。