ひとりの男によって人類の価値観は一変した…20世紀最大の功績を残した天才学者が「辿り着いた答え」
「人類学」という言葉を聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろう。聞いたことはあるけれど何をやっているのかわからない、という人も多いのではないだろうか。『はじめての人類学』では、この学問が生まれて100年の歴史を一掴みにできる「人類学のツボ」を紹介している。 【画像】なぜ人類は「近親相姦」を固く禁じているのか ※本記事は奥野克巳『はじめての人類学』から抜粋・編集したものです。
世界は構造でできている
私たちは遠く離れた辺境の地に住む人たちを、長い間「文明から取り残されている人」として「野蛮人」や「未開人」呼ばわりしてきました。こちらから一方的に偏見を持って見下して語ったり、劣等者扱いをしてきたのです。 フランスの人類学者であるクロード・レヴィ=ストロースは、そういう考え方こそが非科学的だと言い放ちました。それは、耳ざわりのいいヒューマニズムではありません。彼は自身の研究を通して、「未開人」の洗練された思考を人類学的に明らかにしたのです。 たしかに「未開人」と呼ばれてきた人たちの考え方には、私たちのものとは違うところがたくさんあります。でもそれらは、私たちが気づいていないだけで非常に研ぎ澄まされた、豊かなものです。レヴィ=ストロースはブラジル奥地の先住民社会の親族体系や神話を調べ上げる過程で、それらの中に私たちがぱっと見では気が付かない、繊細な秩序が隠れていることを発見しました。 日本人である私たちは、父と母と子による関係性を家族の基本単位とみなし、家族形態を理解しようとします。しかし「未開」社会には、それにはあてはまらない家族形態があります。たとえば前章で触れた、父母のそれぞれの兄弟姉妹がすべてチチやハハと呼ばれるような社会です。チチ・ハハがたくさんいる家族形態は、父母の同世代の男女が乱婚する、私たちのものよりも劣る原始的な習慣の残存であると考えられたのです。 レヴィ=ストロースは、そのような親族呼称の体系は、それぞれの社会や共同体が持つ規則の違いにすぎないと断じます。そして、その体系の中に普段は意識されていない「構造」が隠されていると捉えました。 レヴィ=ストロースは、「構造」こそが人類に備わった普遍的なものであると主張した人類学者です。彼は言語分析の方法論を用いて親族体系や神話を研究し、人々が日々生きていく中で意識されていない「生の構造」が、そこに潜んでいるという結論に辿り着きました。