農業の人手不足と、障害のある人の就労先不足を解決する「農福連携」。その成果や意義とは?
症状改善、地域交流など、福祉事業所から見たさまざまな効果
Q.次に実際に農福連携に取り組んでいる社会福祉団体・青葉仁会のお2人からもお話しを伺いしたいと思います。まず、農福連携に取り組み始めたきっかけを教えてください。 井西さん(以下、敬称略):私たちの団体では、農福連携という言葉が生まれるずっと前の1980年頃から、日中の活動に農業を取り入れてきました。団体の本部がある奈良県東部の山間地で、近所の農家から畑を借りる形でスタートしています。 農作業を取り入れた理由としては、障害のある方が外に出て作業をすることで五感が刺激され、発達につながるという面と、精神的に落ち着くセラピー面での効果が支援に応用できると考えたからです。 Q.当時の農作業には、賃金は発生していなかったんでしょうか? 井西:今と比べると工賃は多くありませんが、収穫した作物をお金に換えて、作業に携わった人たちに工賃としてお返しする形で、少しでも経済活動に参加してもらうようにしていました。青葉仁会としては、団体発足の頃から障害がある人たちも仕事をし、社会に参加するということを大切にしてきたからです。 その後1991年に法人化され、就労支援が可能な事業所として展開していきました。 Q.そこから徐々に、農業が障害のある方の仕事として確立されていったのですか? 田中さん(以下、敬称略):はい。それにはこの地域が抱える問題が、段々と深刻化していったことが影響しています。青葉仁会が活動を始めた当初、農家の平均年齢は40歳くらいでしたが、現在は80~90歳となっています。過疎化、高齢化も急速に進んでおり、耕作放棄地も拡大しています。 ですので、地域の方から依頼を受けて、茶畑や田畑などを譲り受けることも多くなりましたよ。今では開墾した田畑で、米、ブルーベリー、紅茶、ジャガイモ、サツマイモなどを栽培・収穫しています。 また農業だけでなく、加工業、販売業、レストラン経営なども行っており、障害のある人の就労機会を増やすと同時に、地域の活性化も担っています。 Q.実際に農福連携を図ることで、どのような効果が出ていますか? 田中:利用者の方の変化を感じています。施設には障害のある方が100名くらい入所していて、全体の7割くらいの方に強度行動障害があるのですが、農作業をすることでその症状が落ち着くという変化がありました。 そういう方たちの多くは、先の見通しが立たないことを苦手としています。種をまき、大きくなったら収穫するという、過程が分かりやすい農業だからこそ落ち着いて作業ができているという実感があります。 また体を動かすので、昼夜逆転していた方の生活サイクルが整ったという変化もよく見られます。 Q.地域の方との関わりの面でも、何か効果がありましたか? 田中:農家の方との交流はもちろん、青葉仁会ではブルーベリー園を保有していまして、夏期の2カ月ほどブルーベリー狩りを開催しているので、お客さまとして訪れる地域の方や奈良県外の方との交流が生まれています。 井西:地域の方との関係性は、徐々に築かれてきていると思っています。現在、複数の事業所が県内のさまざまな地域にありますが、全ての事業所が順風満帆にスタートできたわけではありません。開所時には地域住民からさまざまな意見が寄せられました。激励の言葉もあれば、そうでない声もありました。 しかし、あおはにの多くの事業所には一般の方々に使っていただきやすい飲食店や物販店もあることで、街全体を活性化させ、閑散としていた地域がにぎわいを取り戻すのに微力ながら貢献できたと思います。 事業所がなんらかの社会的役割を担い、それを支える障害のある方々の姿が見えることで、地域の資源として認知され、今では良好な関係性を築けていると思います。 田中:先日も法人本部のある地域で、自治会の会合に参加させてもらったのですが、そこでも皆さん口を揃えて「この地域のことは青葉仁会さんに頼むで」と言っていただけました。 Q.障害のある方たちと一緒に働く際、工夫できる点があれば教えてください。 田中:先ほどお話ししたように利用者には見通しが立たないことが苦手な方が多いので、作業の見通しや1日のスケジュールをしっかりお伝えする、もし変更があった場合は事前にしっかり伝えるというのが大切だと思っています。 井西:青葉仁会では、農業以外の産業も含めてこれまで40名を超える方が一般就労に移行しています。この結果が出ている一番の理由は、利用者の皆さんの努力にあると思っています。 それと同時に、私たち事業者側がつくってきた支援環境と、就職後の職場環境に大きな乖離がなかったこともその理由だと考えています。 具体的には事業所内での活動や就労支援を通して、あいさつや返事、報告をするというような、社会人として基本となる行動を訓練しておくことに加えて、よりリアルな就労環境を整備していることです。もちろん、働く方の特性に応じた必要な配慮について、企業にきっちりお伝えしています。