亡き娘の画業顕彰に情熱傾ける 康花美術館館長・須藤正親さん死去 長野県松本市
長野県松本市北深志2の私設美術館「康花美術館」の館長で東海大学名誉教授の須藤正親さん=麻績村=が今月7日、病気のため亡くなった。83歳だった。30歳で死去した長女で画家の須藤康花さん(1978~2009)を顕彰するため、平成24(2012)年に同館を開館。経済学者でありながら経済や効率最優先の現代社会に警鐘を鳴らし「文化芸術こそ混迷する時代の光になる」との固い信念を体現し続けた。同館は遺志を継ぐ関係者によって、当面週末に開かれる。 長年大学の教壇に立ちながら、昭和55(1980)年に長男・岳陽ちゃんを、平成5年に妻・礼子さんを亡くした。康花さんも幼少期より難病を患い、同21年に1000点もの作品を遺して先立った。 最愛の娘の死別という大きな失望の中、翌年都内で開かれた回顧展が大きな反響を呼んだことなどから美術館開設を決意。地方都市からの文化発信にこだわり、松本の地を選んだ。病や死と向き合いながら苦悩や祈りを作品に昇華させた康花さん同様、正親さんも並々ならぬ情熱を美術館に傾け、難解ともされる康花さんの作品を読み解き、展示会を企画し、書物に著し続けた。 この間には松本パルコで開かれた「パルコde美術館」への出展や市美術館での特別展も実現。康花さんが広く知られる機会となり、それぞれの人生に照らしながら、心打たれたと感想を寄せる鑑賞者は後を絶たない。私設美術館の経済的な厳しさに直面しながらも、美術館の存在意義を提唱し続け「娘に突き動かされながら限界まで続けたい」との決意を貫いた。 特別展などを担当した市美術館の渋田見彰学芸員は「父親としての深い愛情と事象を冷静に見つめる研究者としての目が、決して埋もれさせてはいけない素晴らしい才能を社会に知らせてくれた。深い悲しみの中でも大きな仕事を成し遂げられた館長に心からの敬意と感謝をお伝えしたい」と別れを惜しんだ。
市民タイムス